「貴女、ここの侍女じゃないわよね?」
「はい。こちらには、夏季休暇の間だけ滞在させていただいております。お手伝いをすることも、こちらの御子息様にはご了承いただいております」
「リオンとは知り合いなの?」
「……はい。リオンさんには……、良くしていただいております」
「フフッ」

キャサリンとルイーズの会話を聞いて、笑うエマ。そんなエマを見たキャサリンは、何やら考え込んでいるようだ。

「あなた、リオンとはどういう関係?」
「どういう関係……まだ、何も決まっていません」

キャサリンに答えながらも、赤面するルイーズ。花畑でリオンから告げられたことでも思い出しているのだろう。

「まだって何よ! リオンが侍女風情と何かあるわけないでしょう!!」 
「侍女…風情……」

女の感は鋭い。ルイーズの言動から感じるものがあったのだろう。エマと話していた時はまだ余裕もあったが、大声で叫ぶキャサリンの顔は恐ろしい。

「まだ、勉強中の身ですが、私は侍女という仕事に誇りを持っています。でも、リオンさんのことも真剣に考えています」

ルイーズの発言を聞いたエマが、護衛として壁際に控えるブライスに目配せをすると、ブライスは頷きながらキャサリンに気づかれないように近寄った。キャサリンは、怒りに顔を歪ませながら、ルイーズに紅茶を投げかけた。

「バァ―ン」

ブライスが動こうとしたその時、部屋に駆け込んできたリオンがルイーズを守るように抱きかかえた。間一髪のところでルイーズにカップは当たらなかったがリオンの背中は濡れてしまったようだ。

「っ!! リオン! 何やってるのよ! 離れなさいよ!!」

キャサリンはますます激昂した。リオンとルイーズを引き剝がそうと、ルイーズの手を掴んだが、その腕に触れた途端、弾かれる様に手を離した。

「やだ……気持ち悪い…何なの。何なのよ―――。リオンと結婚するのは私なんだから!! なんのために、ここまでやったと思ってるのよ……う―――気持ち悪い……」

「ルイーズ大丈夫か?」
「はい、助けていただきありがとうございます。でも、リオンさんが濡れてしまいました。私の為にごめんなさい」
「大丈夫だ。聞きたいことはあるが、それは後だ。」

リオンはルイーズから離れ、キャサリンに向き直ると問い詰めた。