「けっ…こん……?」
「ああ、五つも年下の幼い君に……と思うかもしれないが、当時の俺は、約束しておかないと……そう焦るほどに、離れたくなかったんだ」
「そう、ですか……」

幼い頃の話とはいえ、リオンの〈求婚した〉という事実に、ルイーズの胸は煩いほどに高鳴っていた。


「だが、その翌日……最終日に、君が記憶を失うきっかけになった事件が起きた。
その日は朝早くから、祖父の二人と俺と君の四人で、市井にお土産を買いに行ったんだ。二人が会計をしている間、店を飛び出した俺と、それを追いかけてきた君が、外へ出た瞬間に襲われた。今だから、分かったことだが……その時に狙われていたのは…自分だったと思う。巻き込んでしまった君には、本当に申し訳なかった。

その後、背中を切りつけられた俺と、気を失った君は、市井の病院に運び込まれた。俺の処置が済んだ後、幼い君は記憶が曖昧になりながらも、ずっと側で俺の腕を擦ってくれていた。

その時に、君の手から感じる体温に、心が救われたんだ。悲しみや辛さよりも、これからは強くなって、この子を守りたいって……そう思ったんだ」


自分でも、気づかない間に涙がこぼれていたようだ。頰を伝う涙に気づいたルイーズは、ポシェットからハンカチを取り出そうとしたとき、横からリオンがそっと涙を拭ってくれていた。