「以前からこうなる予感はあったのよね」
彼から母親や姉のように扱われていることには気づいていたのだろう。ルイーズは、幼き頃より婚約者を家族のように大切にしていたのだが……。
そこに男女の情はなかったが、将来は伴侶になるからと、ルイーズなりに尽くしてきた。彼にとって、ルイーズの献身なんて余計なお世話でしかなかったのだろうか。いや、そもそも女性として見られていなかったのかもしれないが。
目の前では、ルイーズの婚約者と可愛らしい女性が、手をつなぎながら庭園を散策している。お互いに見つめ合い、はにかみ顔で語らう姿はなんとも初々しい。あれが自分の婚約者でなければ、可愛いピンクのバラを背景に、見つめ合う恋人たちだと微笑ましい気持ちで見ることもできただろう。
少し見渡せば、ルイーズに気づくほどの距離にいるのに、そんな様子は全くない。
ルイーズは、クラスメイトで親友のエリーと、最近話題のカフェがある庭園にやってきたそこで、先ほどの光景を目の当たりにしたようだ。ある一点を凝視して固まるルイーズに、エリーもその視線の先を辿れば、そこにはルイーズの婚約者が見知らぬ女性とデート中。
エリーはルイーズを支えながら、急いでバラ園に併設されたカフェに移動した。
「ルイーズ、さっきの男性はあなたの婚約者よね?」
「うん、そうね……」
呆然としながら答えるルイーズを気遣わしげに見守りながら、エリーはハーブティーをふたつ注文した。長い沈黙が続く中、エリーは運ばれてきたハーブティーをルイーズに勧めている。差し出されたそれを口に含むと、少しだけ生気を取り戻したルイーズが、顔をあげて何事もなかったかのように話し始めた。
「このハーブティー美味しい。ほんのりレモンの香りがするけど、なんていうハーブかしら」
「それはレモンバームというハーブよ。心を落ち着かせてくれるわ。ハチミツを少し入れてもおいしいわよ。」
店主がおまけでつけてくれたジンジャークッキーを味わいながら、ハーブティーの香りを二人で楽しむ。取り乱さない姿は、さすが淑女教育をうけている令嬢である。
「本当に美味しい。なんだかほっとするし、頭がスッキリしてきたわ」
ルイーズは何かを決心したような面持ちで、エリーを見つめた。