雄一が出かけた夜、引き出しにしまっていた名刺を取り出した。先日穂高さんからいただいたものだ。新事務所の住所や電話番号、それに穂高さんの携帯電話番号が書かれている。
――莉子さんの都合の良いときにお話お聞きしますよ
あの言葉を鵜呑みにしてもいいのだろうか。
迷惑ではないだろうか。
そんなことをぐるぐる考えつつも、先程から名刺と自分の携帯電話を交互に見ている。穂高さんの番号をタップして、その表示を眺めるだけ。あと一押しができない。
と――
ブブブ……
突然携帯電話が震えだし、驚いて肩が震えた。
画面に表示されているのは「雄一」だ。
私は大きく深呼吸してから、携帯電話を耳に当てた。
「もしもし……」
『莉子?悪い、今日みんなで飲みに行くことになったから遅くなる』
「うん、わかった。あまり飲みすぎないでね」
『わかってるよ』
当たり障りなく、会話が終了する。
本当に?
本当にみんなで飲みに行くの?
本当は誰かと浮気しているんじゃないの?
疑ったらきりがない。だけど疑ってしまう。モヤモヤとした気持ちで胸が押しつぶされそうになる。
握りしめた携帯電話。
私は意を決して穂高さんへ電話をかけた。
ワンコールのあと、「石井です」と低くて落ち着いた声が耳に届く。穂高さんの声は耳に優しい。ドス黒く蝕み始めていた世界の色が、ピタリと止まった気がした。
「あの、私、佐倉……莉子です……。お話を……聞いてもらえますか?」
『ええ、わかりました。それでは――』
突然のことだったのに、まるで穂高さんに会うことは決まっていたかのように、すぐに家を出ることになった。
――莉子さんの都合の良いときにお話お聞きしますよ
あの言葉を鵜呑みにしてもいいのだろうか。
迷惑ではないだろうか。
そんなことをぐるぐる考えつつも、先程から名刺と自分の携帯電話を交互に見ている。穂高さんの番号をタップして、その表示を眺めるだけ。あと一押しができない。
と――
ブブブ……
突然携帯電話が震えだし、驚いて肩が震えた。
画面に表示されているのは「雄一」だ。
私は大きく深呼吸してから、携帯電話を耳に当てた。
「もしもし……」
『莉子?悪い、今日みんなで飲みに行くことになったから遅くなる』
「うん、わかった。あまり飲みすぎないでね」
『わかってるよ』
当たり障りなく、会話が終了する。
本当に?
本当にみんなで飲みに行くの?
本当は誰かと浮気しているんじゃないの?
疑ったらきりがない。だけど疑ってしまう。モヤモヤとした気持ちで胸が押しつぶされそうになる。
握りしめた携帯電話。
私は意を決して穂高さんへ電話をかけた。
ワンコールのあと、「石井です」と低くて落ち着いた声が耳に届く。穂高さんの声は耳に優しい。ドス黒く蝕み始めていた世界の色が、ピタリと止まった気がした。
「あの、私、佐倉……莉子です……。お話を……聞いてもらえますか?」
『ええ、わかりました。それでは――』
突然のことだったのに、まるで穂高さんに会うことは決まっていたかのように、すぐに家を出ることになった。