「気になりますよね。外すのを忘れていました」
「ああ、いえ、そういうわけじゃなく……。すみません、ジロジロ見るようなことをして」
「いいえ。もしかして何か悩み事でも?」

ドキリ、と心臓が音を立てた。
悩み事はあるけれど、それを穂高さんに言うなんてことは微塵も思ってはいない。そう、思ってはいなかったのに。行き場を失っている私の感情が、藁をもつかみたいと勝手に口をついて出る。

「……弁護士さんって悩み相談聞いてくれるんですか?」
「内容によりますけど、条件付きですが無料相談もやっていますのでよければご紹介します」
「いや、でも……」

ありがたいとは思ったけれど、そこで相談するほどの勇気は持ち合わせていない。それに、まだ何も確信めいた何かがあるわけでもなく、もしあったとしてこの先私はどうしたらいいのか、そういうことすら何一つ考えていないのに。私の中のぐちゃぐちゃの感情をどう言い表したらいいか、こんな状態で誰かに何かを話せるなんて、到底思わなかった。

それなのに、穂高さんと話をすると、その優しくて落ち着く声音に心が持っていかれそうになる。縋りたいと思ってしまう弱い自分が顔を覗かせてしまうから、困る。

そんな複雑な感情を知らない穂高さんは、綺麗な瞳の奥を柔らかく緩ませる。
それはまるで慈しむような、そんな優しさが含まれていて、自然と胸がぎゅっとなった。

「では、いつもソレイユにはお世話になっているので、莉子さんの都合の良いときにお話お聞きしますよ。もちろん無料でね」

ニッコリと微笑む穂高さんに吸い込まれるように、こくんと頷いていた。

私が穂高さんと話をしていても、雄一も桃香ちゃんもキッチンの中から出てこない。何も気づいていないどころか、二人で楽しそうに談笑している。そんな姿を見るたびに、私の胸は押しつぶされそうになるくらいにぎゅうっと痛んだ。