駅前の一等地にあるcafeソレイユ。曽祖父の代から続く老舗の喫茶店だ。モダンなインテリアにゆったりとした空間。ほのかに耳に響くジャズのBGMは、店内のノスタルジックさとマッチしていて心地良い。

幼い頃に母が亡くなって、仕事の忙しかった父は一人で私を育てられないと放棄し、母方の祖父母に引き取られた。物心付く前からソレイユで祖父母やお客さんに可愛がられて育った私。だからソレイユは昔から私の遊び場であり、大切で思い入れの深い場所でもある。

そんなソレイユのマスターだった私の祖父。数年前に大病を患って、それをきっかけに祖母も引退。一度はソレイユを閉めることを考えたけれど、今は私が微力ながらにも引き継いでいる。将来はソレイユみたいなカフェを経営したいと思っていたから、有り難くも贅沢な話だ。

そして――

同じくソレイユで働く彼氏、久保雄一。彼の夢もまたカフェ経営をすること。今は雄一と数名のアルバイトさんでソレイユを切り盛りして頑張っている。

最初は上手くいかないこともあったけれど、常連さんたちに助けられてようやく軌道に乗ったかなと思っているところ。

「いらっしゃいませ」
「こんにちは、莉子ちゃん。いつもので」
「はーい」

常連の藤本さんご夫妻は週に何回かランチに来てくださる。日替わりランチに食後のコーヒーは旦那様はブラック、奥様はアメリカン。

お客様のオーダーを覚えておくのも立派な仕事。

「莉子さん、よくオーダー覚えられますね」

アルバイトの桃香ちゃんがすごいなぁと呟いた。
桃香ちゃんこそまだ働き始めて日が浅いのに、素敵な笑顔でお客様に可愛がられていてすごいと思う。