「あ、田島(たじま)さん。帰りにそこのパイプ椅子二脚、体育館の倉庫に置いてきてくれる?」

 提出が遅れてしまったプリントを、昼休みに職員室にいる先生へと届けに行ったまでは遅れた私が悪いのだろう。

「あ、はい!」

 返事こそ軽快に、元気よく返したけれど、パイプ椅子を両脇に抱えてみるとなかなかの重量だった。
 
 ちょっとした罰ゲームかもしれないと頭を過るほどにはだ。
 
 「失礼しました」と職員室を出て、パイプ椅子を抱えてよろよろと廊下を歩く。
 
 体育館も、その倉庫も一階にあり、現在地の職員室は二階である。
 
 (え?この状態で階段まで降りるの?)

 自慢じゃないが体力には自信がない。

 体育の授業がある日は憂欝で仕方ないくらいだ。

 思わず立ち止まって、大きくため息をついたとき。

 ふっと右手のパイプ椅子が宙に浮くように軽くなった気がした。

 そしてふわりとフローラルな香りが鼻をくすぐる。

「え……」