特殊な条件で咲く花だから、今年は今夜しか、チャンスがない。

 獣道を進み、へとへとになって訪れた高原で、私ははーっとため息をついた。

 春先とは言えないくらいに冷たい風が、頬に当たった。

 今は赤い月が見えるけど、青い月は見えていない。けど、もうすぐ二つの満月が見えて、開花条件である紫の月光が高原へ降り注ぐはず。

「はーっ……もうっ……双月草って、こんな場所に生えるんだっ……信じられない」

「へえー! 満月草が咲くのか! お嬢ちゃん。その話に俺も噛ませてくれない?」

 私は思いもしない声を聞いて、ばっと後ろを振り返った。そこには、迷彩柄のローブに身を包んだ、フードを目深に被る見るからに妖しげな男。

「……誰?」