二人が図書館から帰ろうと歩き出した時、私は不注意で転倒しそうになった。

 その時、大きな黒い手が影の中から伸びて私を助けてくれた。

 ……あ。

 そっか。イエルクは黒魔法の上位魔法、闇魔法をこの時点で使うことが出来た。

 それは育ての親のドワーフから『決して誰にも言ってはならない』と、約束させられて秘密を抱えたままで生きている。

「あの……」

 何かを言い出そうとしているイエルクに、私は首を横に振って微笑んだ。

「誰にも言わないから、大丈夫」

「先輩は……怖くないですか?」

 一年生の段階で上位魔法が使えるなんて、通常ならば有り得ない。育ての親のドワーフは、イエルクが奇異の目で見られることを恐れていた。

「怖くないよ。イエルクは怖くない」

 本当に怖くない。イエルクは黒魔法の才能を持ちすぎているだけの優秀な子って私は知っているから。

「……先輩って、変な人ですね」

 まだ何か言いたげにしていたイエルクは、また女子寮前まで私を送ってくれたけど、結局は私は彼にとって恋愛対象外だから、余計なことは考えずに自然に優しいんだと思う。