完全にゲーム内容を忘れていた私は、イエルクのある設定を、思い出した。

 なにせ、イケメンとの甘い会話楽しい~みたいなノリで、乙女ゲームを緩くしか楽しんでいないエンジョイ勢なので、こういう細かな設定を忘れてしまっている。

「だから、もし辛い思いをさせてしまったら……すみませんでした。何か、僕に御用でしょうか?」

 自分が無視することになって、その後で私が落ち込んだ様子で歩いていたから、無口で無表情だけど、実は優しいイエルクは、慌てて声をかけて来てくれたんだ。

 ……そうそう! そうだった!

 イエルクは幼い頃に両親を亡くして、親と懇意で引き取ってくれたドワーフに育てられた。

 そして、勉強熱心ですぐに神童と呼ばれてしまうくらいに住んでいた場所で頭角を表すことになり、頭も良くてその上に魔力も強かった。

 だから、周囲から相当妬まれて、養い親ドワーフの魔力を吸い取って成長したんじゃないかとか……事実無根な噂を、流されてしまうのよね。

 イエルクはその時にはまだ幼くて、そんな訳があるはずないのに。

「あ。気にしてくれて、ありがとう……実は私……」