「僕らが勝ったらディリンジャー先輩に、謝ってください」

 私が言い返そうとしたら、イエルクが前に出て、サザールと相対していた。庇ってくれたイエルクの黒い背中を見て、私は冷静になれた。

「なんだよ。お前……家族の問題なんだから、関係ないだろ?」

「さっきの攻撃……手元が狂ったなんて、白々しい言い訳が通じるのは、一回だけですよ。二回はないです」

 その時のイエルクは今までに、一回も聞いたこともない冷たい声を出していた。

 そうよね……怒ってこんな場所で喧嘩しても、何の良いこともない。こんな兄なんて、一秒だって相手にしたくない。

「お兄様のお好きに言って貰っても構わないわ……早く、始めましょう」

 開始直後にサザールがとんでもないことを仕出かしたのだけど、審判(レフェリー)は彼の言い分を信じてお咎めなしで進むらしい。

「ふん。アクィラに入った役目も果たさずにディリンジャー家に、何の利益ももたらさぬような男を引っかけたのか。エルネスト殿下には嫌われてしまって、何の話を聞いてももらえず可哀想なことになっていると聞いたが……本当のようだな」