「あそこ」と窓の外を指さして、しまったと後悔が追いつく。
霞くんから注意をそらす作戦だったのに、流瑠ちゃんの視線を戻すことになってしまった。
この子をコントロールなんて無理か。
流れに任せようと思い直し、僕あえて窓と対面する。
「今だってテニスコートの周りにたくさんの女子が集まってる。キャーキャー飛び跳ねてるし。あの子たちみんな、霞くんと奏多くんカプを拝みに来てるんだよ。それなのになんで流瑠ちゃんは、僕と霞くんをくっつけようとするかな」
「だって私は小学生の時に……」
僕と霞くんがペアを組んで出たテニスの試合を、たまたま見たんだよね。
前衛の僕が弱すぎるせいで惨敗だった。
それでも霞くんは、この先も僕とペアを組むと譲らなかった。
僕以外と組まされるならテニスをやめるとコーチを困らせていた。
僕だけに笑って、僕だけに心を許して、他の人は拒絶で。
あの頃と今とでは違う。
霞くんからの気に入られ度も、お互いの距離感も、霞くんが僕に向ける視線の温度も、なにもかも。