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 高校に来るだけで心が痛む日々に、どうやって終止符を打てばいいのかな。

 教室で幼なじみの笑い声を聞くだけで、嫉妬が溶けた悔し涙が製造されそうになる。

 僕、萌黄(もえぎ)輝星(てらせ)が人前で悲哀を洩らさないようにと必死にマスターしたのは、悲しい時ほどエンジェルスマイルを顔に張りつけるというチープな技。

 放課後の今だってそうだ。

 黄色いエプロンをはおり、卵を菜箸でとく手が止まってはいるものの終始笑顔。

 僕の目じりは理想どうり垂れさがり、口角上向きのハピネス顔をキープできている。

 調理室の2階の窓からテニスコートを見下ろし、スマッシュを決めた幼なじみと恋敵がハイタッチをした地獄絵図が、僕の瞳に映っているにもかかわらずだ。


 あっぱれにもほどがある。

 僕は人を騙す才能でもあるのだろうか。


 テニスの試合は(かすみ)くんたちが勝ったんだなと、嬉しさよりも悲しみが色濃く心を占める。

 遠くから見てもわかるよ、霞くんと恋敵くんが満面の笑みでグータッチを決めているもん。

 恋敵くんなんてワイルドフェイスに白い歯を輝かせながら、霞くんの肩に腕を回していて。

 はぁぁぁ、見てるのしんど……

 癖のように視線を突き刺してしまう幼なじみの残像を闇に葬りたくて、窓に背中を強く押し当てた。