「人の好みにとやかく口を挟まないのが腐女子のたしなみだって思ってる。思ってきた。他人を否定したくないし」
「いい心がけだよね」
「だけどだよ。やっぱり私と違うカプを推されちゃうと、説き伏せたくなっちゃうの。いかんいかん、多様性の時代。他人と私は違う。好みも違って当たり前。これ大事!うんうん!」
ポニーテールを大振りさせた流瑠ちゃんの顔は、梅雨をひと蹴りした後のように快晴だ。
「味付けは部長でもなんでもない私に任せなさい」
白い歯をニカッと輝かせ、胸を張って仁王立ちを決め込んでいる。
「平部員なのに頼もしい」といじったせいだろう。
前方から頭突きが飛んできてドン。
ひたいに痛みが走ったけれど、僕の心が穏やかに凪いでいるいるからよしとしよう。
流瑠ちゃんは隠れ腐女子だ。
僕以外には完璧に隠し通しているらしい。
場をわきまえている。
そういう話になるとちゃんと声のトーンを落としているあたり、さすが成績上位者。