「ええ。そうですわよね。お気持ちは、お察しします。ですが、私たちはお互いにそうする道が良いと思うのです」
「イリーナはここで婚約しない方が、将来的に僕ら二人のためになると……?」
ランベルト様にそう問われたので、私は胸に手を当てて自信満々に答えた。
「ええ。いずれ私はランベルト様より婚約破棄されることになりますし、そもそも婚約しなければ良いのですわ! これこそが未来迫り来る、悲劇の事前回避です」
「僕が君に、婚約破棄を……? 信じられないな。王族と貴族間での婚約破棄など、よほどの出来事がないとあり得ないと思うのだが」
ええ。そう思われると思いますが、ランベルト様が私と婚約すると、その『よほどの事』が起こってしまうのです……。
「王太子殿下から婚約破棄されたとなれば、私だって嫁入り先に困りますし……エリサ様が現れるまでの一時的な婚約者ならば、私以外にしてください。大変、申し訳ないんですけれど……」
「……ああ。事情はわかった。今ここで婚約しないとは、明言することは出来ない。僕も父上から婚約者には君が一番良いだろうと薦められているし……君の父上アラゴン公爵はディルクージュ王国社交界でも筆頭とされるほどの権力者だ。二人の意向を、僕は無視出来ないんだ」