私が顔合わせの段階で王太子の結婚を嫌がってしまうと、それはそれで色々と問題が出てしまう。私だって、父親であるアラゴン公爵を怒らせたくはなかった。

 さすがはゲーム終盤で、ヒロインエリサを追い詰めて殺そうとする超絶悪女となってしまう予定の悪役令嬢イリーナの父親というべきか……姿も立ち振る舞いも、とても恐ろしいし、出来るだけ逆らいたくない。可愛がられてはいるけれど……。

 だから、私はこの顔合わせでの、とっておきの秘策を考えたのだ。

 ランベルト様との顔合わせで彼にこれから起こるすべてをぶちまけて、彼の方から断ってもらい、婚約者になるのを避ければ良いの。

 ここでランベルト様が『イリーナが婚約者なのは嫌だ。チェンジ』と断ってさえくれれば、私は悪役令嬢にはなれない。なりたくない。

 映像付きのゲームなんて、ディルクージュ王国……いいえ。この乙女ゲームの中世風異世界では存在しないものだから、私もどう説明して良いのか迷ってしまったけれど、彼は流石優秀な攻略対象者というべきか、つたない説明でもすんなりと理解してくれたようだ。

「ええ。そうなのですわ。なので、ランベルト様より、この婚約を断って欲しいのです」

「しかし……それは」