「そそそそっ……それは!」

 確かに、私に求婚者が居ないことについてはまぎれもなく事実だった。だって、社交界デビューを終えた貴族令嬢たちはぞくぞくと婚約を決めて、貴族学校を中退して花嫁授業へと入る。

 私は今、卒業式に出ている。つまりは、そういうことだ。婚約者は居ない。

 ……けど、別に焦ることはないかなって、そう思ってて……。

「と言うわけで、突然だが、明日は僕とイリーナの結婚式だ! 皆も良かったら祝いに来てくれ!」

 私を横抱きにしたランベルト様は、会場からの拍手喝采を受けて出入り口の大きな扉へと向かった。

「ままままっ……待ってください。あまりにも話の展開が、急過ぎてですね」

 何も……何も、追いつけていない。

 もしかして、私って明日には結婚して、ランベルト様の……王太子妃?

 信じられないんだけど!

「何を言う。幼い頃に婚約していても同じことだったのだ。王太子となれば、早々に結婚して子を作り血を絶やさないことが望まれる。君はこれを、幼い頃に決められていたのだ」

 ランベルト様の整った美しい顔は、私の戸惑いを透かし見て楽しんでいるかのようだ。

「……私、あの……そのですね。結婚するなら、二人の関係を深めてからにしたいっていうか……」

 もうここで、ランベルト様からは逃げられないと思いつつ、どうにか心の準備をする時間を取れないかと上目遣いでお願いしたら、ランベルト様は悪い笑みを浮かべて首を横に振った。

「駄目だ。そうしたかったのなら、君はあの時に、すべてを僕に伝えるべきではなかったな」