「しっ……余計な事は話さない方が良い。何かおかしいと勘ぐられるぞ。幼い時に君が嫌だと言っていたすべての懸念を、これで取り除いけたんだ。何年も前に予定されていた通りに、僕と結婚しても良いだろう」

「えっ……? え? たっ……確かにですね。私とランベルト様は婚約する予定でしたが……ですが……」

「ああ。僕の父も君の父も、僕と君の二人が結婚することを、強く望んでいてね。良くわからないが、僕と婚約してしまえば女性が近付くと嫉妬して人殺しまでしてしまいそうなので、婚約したくないと言っていると彼ら説明したんだ」

「そっ……それは!」

 なっ……なんてことを! すっごく私がランベルト様を好きだから、彼と婚約したくないって我が儘言っているみたいになっている!

「事実だろう」

「そっ……そうです……」

 確かにあの時、すべてぶちまけてやるとばかりに、彼にそう言った。

 私が婚約者になれば、ランベルト様に近付く女性を嫉妬して、殺したくなってしまうって。

 ……お父様。ある頃からか、私にやけに丁寧な対応するようになっていたけれど、この話を聞いて『うちの娘、こわっ……』って、内心恐れていた……?

 えっ……衝撃の事実なんですけど!!

「だから、相談の上で婚約は水面下で執り行い、君には結婚式直前まで、何も伝えなければ良いということになってね」

「……えっ?」

 ランベルト様……確かにその通りだけど……だけど、婚約者なら嫉妬してしまうなら、すぐに私と結婚すれば良いですって!?

 そんなむちゃくちゃな話あります? 現にこうしてあったみたいですけど!

「イリーナ……これまでに、おかしく思わなかったのか。アラゴン公爵家の美しいご令嬢とあろうものが、誰も……婚約をしたいと求婚する人間が、居なかったのに」

 甘く囁くようにして彼は耳元でそう言い、私の顔は真っ青になった。