「一体、何のお話ですか?」
「イリーナ・アラゴン公爵令嬢!」
その瞬間、背後からランベルト様の声が響いた。
わっ……私の名前? 振り向いた瞬間に、エリサ含む私の周囲に居る人は居なくなってしまった。まるでモーセの海割りの伝説のように、私と彼の間にあった空間はぽっかりと空き、その間をゆっくりと進んでくる影。
「……ランベルト様……?」
私は思いもよらぬ出来事に戸惑うばかりだ。何? ……どうして、卒業式に私の名前が呼ばれるの……?
だって、私悪役令嬢っぽい事をこれまでにひとつもしてないのだから、断罪される理由はないはずだけど!?
「それでは、皆。こちらが僕の婚約者であるイリーナだ。これまでには、政治的な理由があって明かすことは出来なかったが、これからは僕の婚約者であり未来の王太子妃なので、よろしく頼む」
「……え?」
私は突然の出来事に頭が全然付いていかなかった。だって、私悪役令嬢になりたくないから、幼い時の婚約の申し出もランベルト様から断ってくれってお願いしたのよ。
「イリーナ……これで、すべて片付いたんだ。君の懸念事項はすべて取り除いた。なので、卒業式を終えたら、すぐに結婚式の準備をしてある」
「なっ……なんですって!?」
私が素っ頓狂な声をあげると、ランベルト様は悪い笑顔で私の耳元で囁いた。