破局

香苗は圭吾と別れてからも、彼のことがふと頭に浮かぶようになっていた。付き合っていたのはほんの一週間で、その間に特別なことがあったわけではなかったのに、彼の独特なユーモアや無邪気さ、そしてギャンブルに対する情熱が記憶に残っている。仕事に集中しようとしても、気がつくと圭吾の笑顔や、彼のふとした言葉がよみがえってきた。彼のあっさりとした「いいよ、わかりました」という別れの言葉も、今になっては妙に心に引っかかっていた。香苗は「もう終わったことだ」と自分に言い聞かせようとするものの、圭吾のことが気になって仕方がない。ある日、香苗は友人と飲みに行った席で、ふと圭吾の話題を持ち出してしまった。友人が「まだ彼のことが気になるの?」と驚いた顔で尋ねると、香苗は「別に…気になるってわけじゃないけど、なんか忘れられないんだよね」と自分でも納得がいかない様子で答えた。帰り道、香苗は自分の中のモヤモヤを整理しようと、思いきって圭吾に連絡を入れるかどうか考え始めた。彼と別れた理由は、自分と彼の価値観や将来の見通しが違いすぎるからだった。けれど、圭吾の飾らない人柄や、彼と一緒にいると自然に笑顔になれる感覚を思い出すと、そのまま忘れてしまうのも何か違う気がしてきた。
「…もう一度会って、話してみるのもありかな。」そう思った香苗は、スマホを手に取り、圭吾にメッセージを送った。
「久しぶり。元気にしてる?」とだけ書いて送信ボタンを押すと、心臓がドキドキした。数分後、圭吾から返信が来た。
「お、香苗さん!元気だよ。もしかして、パチンコ仲間になりたくなった?」というおどけたメッセージに、香苗は思わず笑ってしまった。そして、もう一度彼に会ってみようと決意した。彼との出会いが彼女にとって何をもたらすのかはわからないが、もう少し一緒に過ごしてみたいと心から感じていた。