出逢い

彼女は、友人のすすめでなんとなく始めたマッチングアプリで、パチンコが趣味という少し変わった男と出逢う。彼のプロフィールには、一般的な職業や趣味ではなく、パチンコに関する話がほとんどで、ギャンブル好きの印象が強かった。普通なら興味を持たない相手だったが、彼のユニークなプロフィールに惹かれ、好奇心からメッセージを送ってみることにした。
「はじめまして、佐江香苗、24歳です。心理士をやってます」と彼女が自己紹介のメッセージを送ると、驚くほどすぐに返信が返ってきた。
「パチンコバカです。心理士? うそ、マジで!? 自己紹介しますね。俺、風間圭吾、29歳!」
圭吾の率直な言葉に、思わず笑ってしまった香苗。メッセージを交わすうちに、圭吾の人懐っこくユーモアのある性格が伝わり、彼に対して少しずつ興味が湧いてきた。彼が語るパチンコの話は理解しがたい部分もあったが、不思議と会話が楽しく続いた。そして、初めて会ってみることに。初対面の日、彼女は少し緊張しながらも、指定されたカフェに向かった。圭吾はパチンコホールが近くにあるカフェを選んだというから、少し呆れつつも「これが彼らしいのかも」と思いながら到着する。待ち合わせ場所で目に入った圭吾は、写真よりも少し柔らかい印象で、彼女に向かって素朴な笑顔を見せた。
「来てくれてありがとう、香苗さん。今日はよろしく!」
気さくに声をかける圭吾に、香苗は自然と緊張がほぐれていった。話をしていると、彼の思ったよりまじめで、やりたいことを持ちながらも不器用に生きる姿が伝わり、香苗の中で「この人となら、何か特別なものが見つかるかもしれない」という期待が生まれていった。会話を重ねるたび、圭吾の独特な感性やまっすぐな性格に触れ、香苗は彼との距離が少しずつ縮まっていくのを感じていた。彼女の考え方や仕事に対しても興味を示し、時には鋭い質問を投げかけてくる圭吾。その純粋な反応が、香苗にはどこか新鮮で、今までの恋愛にはなかったものだった。デートの終わりに圭吾がぽつりとつぶやいた。
「俺、今までパチンコ以外に夢中になったこと、なかったんだ。でも、香苗と話してると、不思議と他にも何か見つけたくなるんだよね。」
香苗は心得ていた。この人のペースにハマらないようにしなければ、そうでなければ美人は野獣にのめり込んでしまうものだ。香苗は橋本環奈に似ており、パチンコとは縁のない顔立ちである。香苗は、彼の仕事を聞いてなかった。改まって尋ねてみると意外な答えが返ってきた。地方公務員らしい。
「地方公務員って意外だね」と香苗は思わず笑ってしまった。圭吾のパチンコ好きな一面とのギャップが不思議で、ますます興味が湧いてきた。
「そうなんだよ。なんか、仕事と趣味が正反対だってよく言われる」と圭吾も照れくさそうに笑った。会話は自然と彼の仕事や日常の話へと続き、香苗は、普段どんなことを大切にしているのか、どんなことを楽しんでいるのか、少しずつ圭吾の内面に触れる気がした。彼は人と接することが多い仕事のようで、地元の人たちに頼りにされる立場らしい。どこか子供っぽくも見えた圭吾の別の一面が、香苗には新鮮だった。その日のデートの帰り道、圭吾がぽつりとつぶやいた。
「香苗と会うと、なんか、ちょっとだけ自分を変えてみたくなるんだよね。」
その言葉に、香苗は心が温かくなるのを感じた。パチンコと仕事に忙しい圭吾だけれど、彼なりに彼女の存在が変化をもたらしているのかもしれない。これまでの関係とは違う「何か」が、少しずつ芽生えている気がして、香苗の心は期待で満たされていった。二人の関係は、少しずつ新しいステージへと進んでいくかもしれない。
香苗は不安になり、意を決して尋ねた。「もしかして、圭吾、借金してない?」
すると圭吾は、少し笑いながら答えた。「借金はしてないけど、今月のボーナスは全部注ぎ込んじゃったよ。100万ね。」
その言葉に、香苗は胸の中でモヤモヤが広がるのを感じた。彼の無鉄砲なところに少し惹かれていたはずが、今はそれが怖くなり始めている。彼のペースに飲まれてしまう未来が、なんとなく想像できてしまったのだ。勇気を出して、「圭吾、私たち、このままでいいのかな?」と切り出すと、思いがけず圭吾はあっさりと「いいよ、わかりました」と返事をした。その瞬間、香苗の心には複雑な感情が湧き上がった。彼との別れを決めたのは自分だったはずなのに、そのあっさりとした返事が寂しさと共に、ほんの少しの後悔も呼び起こしていた。