翌週、家の前にこぢんまりとした、でもきれいな飾りのついた馬車がやってきた。
 お母さんは私をその馬車に乗せた後、自分も一緒に乗り込み、
「これから新しいお家に行くわよ」と言った。

 新しいお家? これからそこに住むの? 今までのお家じゃだめなの?

 思いつく限りの疑問を口にしたが、お母さんは
「向こうに着いたら全部話すわ」とだけ言った。

 私はまた不安になり、初めて見る馬車からのながめにも目もくれず、ぎゅっと両手をにぎりしめていた。

 やがて馬車は、とあるお屋敷に着いた。それほど広くない庭と、豪邸(ごうてい)とは言えないくらいの屋敷だったが、今まで私達が住んでいた町中の住宅に比べれば、はるかに立派だった。
 小さめながら庭はきちんと手入れが行き届いていたし、家の中もきれいに掃除(そうじ)され、決して多くはないもののいくつかの美術品が飾られていた。

 応接間に通された私達は、そこでその家の主人という男の人に迎えられた。中肉中背で目立たない見た目だったが、少し小さめのその眼は優しそうで、着ている服も落ち着いた上品なものだった。