「羽衣、かわいい!」

 支度を終えてリビングに顔を出すなり、マコちゃんが褒めてくれる。

 まさかデートなんて事態になるとは思わなかったわたしは、昨日の夜、服、どうしよう!? と焦った。

 とりあえずある服でなんとかしようと思ったんだけれど、どうにもならなくてTシャツにミニスカートというシンプルなコーディネートになっちゃった。

 それでも普段着とは違う装いを褒めてくれて嬉しい。

 そういうマコちゃんは、透かし編みのニットにクロップドパンツ、上に羽織ったシャツが爽やか!

 か、かっこいい……。

「じゃあ、行こうか。羽衣」

 エスコートするかのように手を差し伸べてくれるマコちゃんの手をとりかけて、ためらった。

 え、わたし、隣歩いていいのかな?

 これ、またしても身の危機じゃない?

 そして、こんな素敵な人の隣に、雑なコーディネートでごめんなさいっ。

 そんなわたしの気持ちを察してくれたのか、マコちゃんは優しく頭を撫でてくれた。

「大丈夫。多分、知り合いがいないところまで行くからね。そしたら手を繋ごう?」

 お楽しみというようにウインクをするマコちゃんに、思わず頬が緩む。

「じゃあ二人とも、気を付けていってきてね。遅くならないのよ」

「わかってるよ。じゃあ、行ってきます」

 マコちゃんに続くように玄関を出ようとして、廊下の奥にあるリビングの気配を探る。

 今日は朝から紫希くんに会っていない。

 昨日、ちょっと不機嫌だったよね。

 避けられちゃったのかな?

「羽衣ちゃん? どうしたの?」

 立ち止まったままのわたしに、心配して琴子さんが声をかけてくれる。

「あ、なんでもないです。行ってきます」

 そうだよ。紫希くんのことなんて、気にしなくてもいいんだ。

 だって、紫希くんはわたしがマコちゃんと二人で出かけるの、平気なんだから。


 学校へ行く電車とは反対方向。

 恵那家も県境だから、つまりは越境して隣の県へと電車は走っていく。

 途中でいわゆるローカル線へと乗り換えた。

 車窓から見える景色もどんどんと田んぼや山の緑が濃くなっていって、その先に見えるのは……。

「海、だ」

 それだけじゃない。記憶にはないけれど、この辺についてはなんとなく知っている。

「羽衣、降りるよ」

 マコちゃんに促されて降り立った街は、かつてわたしたちが住んでいた街だった。

 この駅舎、つい最近、マコちゃんの写真探すときに見たもん。

 レトロ感増した気がするけど、写真と変わらない駅舎になんだか嬉しくなる。

「でも、なんでここ?」

 記憶はほとんどない。それともマコちゃんにはあるんだろうか?

 わたしに会ってここが懐かしくなったってことなのかな?

「ね、写真撮ろう」

 スマホを取り出したマコちゃんから、自撮りに誘われる。

「うん、いいよ」

 そうこたえれば、グイっと肩を抱かれて引き寄せられる。

 うわっ。ち、近い。

 これだけ近づくと、今はもう薄れてきた寝具に染みついていたマコちゃんの匂いが鼻をくすぐる。

 思わず照れてうつむいたら、クイッと顎をもちあげられた。

「ダメだよ。ちゃんとこっちを見て」

「え? あ、あのっ」

「ほら。カメラから目を逸らさないで」

 あ、カメラね。そうだよね。

 あーもうっ。恥ずかしい。

 カシャッと音が鳴り、マコちゃんが画面を確認する。

「うん、かわいい」

 見せてくれたのは、笑顔が眩しいくらい素敵なマコちゃんと、真っ赤な顔をしたわたし。

「やだっ。こんな写真恥ずかしいから、消して」

「それこそ嫌だよ。羽衣の写真なんだもん。大切に保護するんだから」

「えーっ!」

 抗議の声をあげるわたしに、マコちゃんは楽しそうに笑う。

 その笑顔につられて、わたしも自然と口元が緩む。

「ね、せっかく来たんだから、散策しよう」

 家を出る時と同じように、手を差し出された。

 繋ぐ、べき? それこそデートとはいえ、つきあっているわけじゃないのに。

 躊躇っているのが伝わったのか、マコちゃんが大きな瞳に強い意志を宿らせて、私の目を見る。

「羽衣、今日だけ。こうして手を繋ぐのも今日だけでいいから」

「今日、だけ?」

 なんで今日だけなのかわからないけど。

 真剣なマコちゃんの瞳を見たら、このお願いは断ったらいけない気がした。

 それに、ここなら知り合いもいないだろうし、わたしたちが生まれ育った場所だもんね。

「昔に戻って手を繋ぐのも、悪くないかも」

 ちょっと言い訳っぽいかな?

 それでもそっと手を繋ぐと、ホッとしたようにマコちゃんが笑った。

「じゃあ行こうか」

 繋がれた手は、紫希くんと違ってどこまでも優しかった。

 あまりに違うからかな?

 繋ぎながら紫希くんのことを考えちゃって、そのたびにそれじゃいけないと振り払う。

 せっかくマコちゃんが誘ってくれたのに、失礼だよね。

 口数が少ないわたしに気づいたのか、マコちゃんは通りのお店とか、かつて住んでいた家のあたりとか、色々案内してくれた。

 途中でソフトクリームを買ったりして歩きながら、海にたどり着いた。

 夏の暑い日だというのに、海には全然海水浴客がいなくて、海の家もない。

「この辺は遊泳禁止だからね。この時期でも人はいないから、散歩にはいいんだ」

 そっか。だから静かなんだね。

「歩いてても思ったんだけど、マコちゃん、詳しいんだね。小さい頃に住んでいただけなのに」

 どこを歩いても、なにをみても、わたしは思い出すことはなかった。

 一緒に過ごしたはずなのにね。

「それは、下見に来ているからね」

「え?」

「だって、羽衣をエスコートするんだもん。当然でしょ」

 キラキラした笑顔で言われると、くすぐったくなって思わず照れてしまう。

 そんな中、少しくぐもったような音で、懐かしいメロディーが流れ出した。

「夕方のお知らせ、だね」

 単音で奏でられた音は、なんだかさみしさを誘うような音だった。

 夏のこの時間はまだ明るいけれど、一日の終わりを知らせるメロディーは切なくて、最後の一音の余韻まで、わたしたちは黙って聞いていた。

「ボクはね、子供の頃に羽衣と一緒にいたの、よく憶えているよ」

「え?」

 再会してから一度も昔の話はしてこなかったから、驚いてマコちゃんを見る。

「羽衣は、あんまり憶えてないみたいだけど」

 ちょっと寂しそうに笑うマコちゃんに、申し訳なくなる。

「ご、ごめん……」

「謝らないで。だって、子供だったもん。だけどボクは羽衣のこと、絶対に忘れないんだ」

 ハッキリと言い切るマコちゃんに、わたしは戸惑ってしまう。

 絶対忘れない、なんて。

「どうして……」

「それは、羽衣がボクを救ってくれた天使だからだよ」

「天使? わたしが?」

 そんなこと、言われたことがないし、ありえない。

 それはマコちゃんと一緒に並んだ写真を見ればわかる。

 天使なのはマコちゃんだ。

 子供の頃からかわいくて、笑顔だけでみんなを幸せにできる。

「昔ね、うちの庭に仔猫がいたんだ。母猫に捨てられたのか、誰かが捨てていったのかわからないけど、一生懸命鳴いていてね。母さんが保護して、そのままうちで飼うことになったんだ」

「それって、ひょっとしてソラなの?」

「そう。ソラはあれでももう高齢猫なんだよ」

 いつもソファで優雅にくつろいでいるソラ。

 人が大好きで、わたしにもすぐに慣れてくれて。

 撫でていると心がほぐれていく、癒しの猫。

「そっか。ソラとの出会いはそんな風だったのね」

「うん。でも、仔猫を飼うなんて母さんも初めてで。戸惑うことばかりだったんだ。それである日、ソラが元気なくて、食欲もなくて。心配した母さんが動物病院に連れて行ったんだ」

 猫って言葉で体調不良を伝えられるわけじゃないもんね。

 しかも仔猫なら、心配は増すよね、きっと。

「母さんが動物病院に行っている間、ボクは不安でしょうがなかった。ソラになにかあったらどうしようって」

「それは、そうだよ」

 過去の話であるけれど、その時のことを思うと胸が苦しい。

 きっと待っている間、マコちゃんは不安で胸がつぶれそうになったんじゃないかな。

「玄関先で母さんが帰ってくるのをずっと待ってた。膝を抱えて、泣きそうになるのを必死でこらえて。だって、泣いたら不安が本当になる気がして怖かったんだ……そんな時だよ。羽衣が、ボクを抱きしめてくれたんだ」

「え……?」

 温もりを思い出すかのようにマコちゃんは両手のひらを開いて、その手を握りしめた。

「『大丈夫。ソラはマコちゃんを置いて行かない。マコちゃんが信じていたら、ソラは絶対に帰ってくるから』って。そう、抱きしめてくれたんだ」

 そんなこと、あったっけ。

 一生懸命記憶をフル回転させると、泣いているマコちゃんがいたような気が、なんとなく、する。

「春、だったかな? 確か、近くに咲いていた桜の花びらが舞っていたような気が……」

「思い出したの? 恥ずかしいから忘れてくれていてよかったのに」

 そうだ。あの時、どうやって慰めるなんて考えていなかったけど、桜の花びらも励ますように舞っていたんだ。

「すっかり忘れちゃっていたなんて……」

「多分、羽衣は信じてたからだと思う。ソラが大丈夫だって。実際に大丈夫だったから忘れちゃったんじゃないかな。でも、ボクは忘れない。そうやって抱きしめてくれたことも。『泣きたいなら泣いて。我慢してたらソラが悲しむよ』って泣かせてくれたことも」

「そ、そんなこと、言った?」

 なんだかとっても恥ずかしい。

 子供の頃の出来事だけど、きっと今でもそう言っちゃう気がする。

「だからボクにとって、羽衣は忘れられない天使。ありのままで泣かせてくれて、誰よりソラのことを信じてくれていたから」

「お、大げさだよっ。ソラを助けたのは、早く連れて行った琴子さんだし、動物病院の先生だもん」

「ボクにとっては、羽衣が全てだよ。あの時、羽衣がいたから、ボクは母さんが帰ってくるのを待てたんだ。そうじゃなければ不安でどうにかなっていたかもしれない」

 いつも明るいマコちゃんが、見たことないような切なげな表情をして、どことなく苦しそうにも見える。

「マコちゃん?」

 つらい記憶を話したから、苦しくなったのかな? と顔色を窺うと、そのまま抱きしめられた。

 いつものハグじゃない。

 だって、マコちゃんが震えているから。

「あれがボクの初恋だったんだ。あれからずっと。離れてからも羽衣だけを想って、いつか羽衣と再会する日を待っていた。今回の同居は驚いたけど、これで再会できるって喜んでいたんだ」

 初日のことを思い出す。

 無邪気に喜んでハグしてきたマコちゃん。そこに幼なじみの再会以上の想いがあるなんて、気づかなかった。

 突然の告白に戸惑いながらも、腕を振りほどけないでいたら、微かにマコちゃんが身じろぎした。

「ここまでかな」

「え?」

 抱きしめられていた力が緩んで、包まれるように腰に手を回される。

「厄介な奴が現れたからね」

 マコちゃんがわたしから視線をあげて前を見据える。

 その視線の先をたどっていったら、そこには息を切らした紫希くんがいた。

「なん、で」

「まーったく。今日は部活で一日拘束されているはずなのに」

「え?」

 紫希くんって、部活やってたの?

 だって、いつもわたしと一緒に下校していたのに。

 さっきまでの切なさは消えて、いたずらっ気のある瞳をしたマコちゃんが教えてくれる。

「あいつ、羽衣と一緒に帰るために部活は平日の朝練と、週末はみっちりやることにしたんだって。だから今日は来れないと思ったのにな」

 わたしと、一緒に帰るために?

 そんな無理していたの?

「あーあー、あんな血相変えて走ってきて。もうちょっと余裕もってもいいだろうにね」

 血相変えて? そうなの?

 だけど紫希くん、マコちゃんと出かけるって言っても止めなかったのに。

「真琴、そいつから離れろ」

 荒い呼吸のまま、紫希くんがこちらへと近づいてくる。

 言われて気がつけば、わたしはまだマコちゃんの腕に捕らわれたままだった。

「さぁて、どうしようかな」

 挑発するようにマコちゃんはわたしを包む腕を離さないまま、怪し気に瞳が揺れる。

 マコちゃんも紫希くんも、どうして二人はこうなるのかしら。

「羽衣」

 呼ばれてマコちゃんの顔を見れば、微かな温もりを頬に感じた。

「──てめぇっ!」

 紫希くんが足を取られながらこちらに走ってくると、逃げるようにマコちゃんは離れていった。

 い、い、今。

 キス、したよね? 頬に!

 戸惑いと驚きが隠せず、思わず左頬に手を寄せる。

「っと、うわぁっ!」

 頬に気を取られていたら、今度は紫希くんが強引に抱きしめてくる。

「真琴っ!」

 がなるように叫ぶ紫希くんに、マコちゃんは「へへーっ」と笑う。

 後から伝わってくる粗い呼吸。まるで狂犬のように殺気を感じる。

「羽衣!」

 あっという間に離れていったマコちゃんが、私の名前を呼ぶ。

「え? あ、なに?」

 マコちゃんは、小さく息をはいた後に、優しく笑った。

「大好きだったよ」

 そう、今まで見た中でいちばん、キレイな笑顔を見せてくれた。

「バイバイ。ボクの初恋」

「あ……っ」

 なんて言ったらいいのか迷っている間に、マコちゃんはクルッと背を向けて走っていってしまった。

 そのまま振り返ることなく小さくなっていった姿は、やがて見えなくなった。

「行っ、ちゃった」

 なにも、言えなかった。

 だってなんて言ったらいいの?

 ありがとう? 嬉しい?

 あれだけの想いを伝えてくれたマコちゃんに返す言葉が、そんなことなの?

 だけどどんな言葉でも、きっとマコちゃんには届かない。

 だって、マコちゃんがいちばん欲しい言葉を、一番欲しい想いを。わたしは伝えることができないんだから。

 どんなに素敵な人だって、まわりから羨ましがられる人だとしたって。

 わたしはマコちゃんに想いを返すことができない。

 わたしが伝えたい人は……。

 マコちゃんの突然の別れを、紫希くんは呆然として見ていた。

 縛りつけるように抱きしめていた腕の力も弱まっていたから、わたしはすり抜けて紫希くんから一歩距離を置いた。

「羽衣?」

「なんで、ここにいるの?」

 聞かなかったわたしも悪いんだと思う。

 だけど、教えてくれてもよかったのに。

「部活を抜けて、来たの?」

「それは」

 詰まった言葉が、答えを言っているようなものだ。

「そんなこと、しないで」

「──っ」

 ハッキリとした拒絶の言葉に、紫希くんが目を見開いた。

「マコちゃんから聞いた。わたしの為に部活を犠牲にしてるって。わたし、そんなこと望んでない」

「犠牲になんかしてない」

 そうは言うけれど、少なくとも今日は部活直後に駆け付けてきたんだ。

 だって、紫希くんが手に持っているものは……。

「弓道部、なの?」

「あぁ」

 紫希くんは、身長よりも長くて細いものを持っていた。

 弓道部の帰宅を何回か見かけたことがある。

 あれと同じだもん。

 紫希くんが何も言わないから、わたしも知らないまま過ごしちゃった。

 だけど中学時代に部活やっていたんだから、部活の大変さだって知っている。

 休んだ分を取り返すのが大変だってことも、知っているもん。

 知ったからには、もう今までと同じではいられない。

 大丈夫。とっくに今の路線にも慣れたし、ダイヤも頭に入っているんだから。

 紫希くんがいなくったってひとりで行ける。

 甘えていたんだ。傍にいたかったから。

 でも、それが紫希くんの負担になるなら、わたしの望むことじゃないもん。

「月曜日から、一人で行くね。紫希くんも自分のリズムに戻して」

「……嫌だ」

 再び抱きしめられる。

 強く、激しい想いをぶつけられているみたい。

 こんなの、勘違いしそうになる。

「ダメだよ。こんなこと、しないで」

「嫌だ」


「……わたしが、つらいの!」

 身体を強張らせて叫んだら、驚いたように紫希くんがわたしを見る。

 その瞬間に、紫希くんの胸を強く押して腕から解放された。

「なんで? なんでこんなことするの? わたしのことなんて、なんとも思ってないくせに」

 言ってる傍から悲しくなって、思わず涙が零れてしまう。

「ぶっきらぼうで不機嫌かと思ったら優しくしてくるし、気づいたらいつも傍にいるし。今だって、こんなところまで来るし」

 なに言ってるんだろう? わたし。

「なんで来たの? デートって聞いても止めなかったくせに!」

 わからないけど、とにかく言葉が止まらないし、涙も止まらない。

「強引で勝手かと思ったら、守ってやるとか言うし、意味わかんなっ――」

 その先の言葉を続けることは出来なかった。

 はじめての温もりは、強引で、息が苦しくなるくらいで。

 身体の芯からぶつけられているような熱を持っていた。

「はっ……」

 ようやく離されたかと思ったら、再び抱きしめられた。

 今度はゆっくりと、包み込むようにして。

「俺だって、わかんねーよ。でも、気づいたら離したくないって思ったんだ。誰にもとられたくないって思ったんだ」

 抱きしめられた胸から、紫希くんの鼓動が聴こえる。

 その速さから、言葉が嘘じゃないんだって、伝わってくる。

「最初はめんどくさいと思った。でも不器用なりに琴子さんの役に立とうとしたり、心配させまいとしている羽衣を見ていたら、ほっておけなかった」

「紫希くん……」 

「今日のことだって、平気だったわけじゃない。だから急いで来たんだ」

「うん……」

 あれだけ息を切らしてきてくれたんだ。本当に急いでくれたんだと思う。

「部活の件は心配させて悪かった。でも、問題ねーよ」

「そんなわけ……」

「だって、文句言わせねーくらい努力してるし、実力もあるからな」

 ニヤリと自信ありげに笑ってみせる。

 なんて人だろう。こっちが心配してるっていうのに。

「あと少しだろう? 羽衣と一緒に登下校できるのも」

 そうだ。あと五日間学校に行けば夏休みに入る。

 同居はもう少し続くけれど、登下校はもう一緒にできなくなるんだ。

「本当は、わたしも、一緒に登下校したい」

 素直に伝えると、珍しく紫希くんが目を丸くして、そクシャッと優しく髪を撫でてくれた。

「じゃあ、月曜日からまた、よろしくな」

「うん」

 気がつけば徐々に海がオレンジ色に染まりだしていた。

 同じ家に帰るんだから淋しいはずないのに、なぜだかここから離れがたくて、やがて夜の闇に包まれるまで、なんどもお互いの温もりを確かめ合った。