皇族の秘密がバレること。それはアッシュを危険に晒すことも同意だ。シャルロッテにとって既にアッシュは可愛い我が子だった。

「でも……」

 シャルロッテは部屋の本を見回して、頬を引きつらせる。

「そうは言っても、ここの本は全部難しそうです……」

 一冊も開いていない。しかし、背表紙からして本が「難しいぞ」と言っている。シャルロッテは勉強が得意な方ではない。この本を一冊ずつ読むだけの気力や能力があるだろうか。
 シャルロッテは目の前の一冊を手に取って開く。
 比較的薄い本を選んだつもりだが、中にはびっしりと文字が書かれていて難しそうだ。
 何も考えずに閉じた。
 カタルの小さなため息が聞こえる。

「まずはこれを読むといい」

 カタルは静かに言うと、一冊の本をシャルロッテに手渡した。

「これは?」
「皇族が一番初めに読む本だ」
「へぇ……! わっ! 絵がいっぱい!」
「子ども用だからな」
「なんだか子ども扱いされているような気がします」
「変らないだろう」

 シャルロッテは頬を膨らませる。こんなにも立派に母親を務めているというのに、なんたる仕打ちか。

(でも……。皇族が一番初めに読む本ってことは、アッシュもこれを読むのよね)

 半分は絵で埋まり、文字も大きく読みやすい。難しい単語も少ないようだ。
 シャルロッテはカタルを見上げて、満面の笑みを浮かべた。

「カタル様、ありがとうございます。皆さんのこれで勉強してみますね!」

 彼は思い詰めたような、それでいて嬉しいような不思議な表情でシャルロッテを見下ろし。小さな声で「本当に物好きだな」と呟いた。
 彼がこの書庫から出て行くと、シャルロッテは本を広げる。この小さな書庫には、本を読むためのソファまで用意されていて快適だ。今度は飲み物を持参しようと心に決める。

「さて、なになに?」

 シャルロッテは一行目を指でなぞった。