途中でカタルは五冊の本を抜いていく。
 書庫の一番奥に辿り着くと、カタルは五冊の本を差し込んでいった。

「何をやっているんですか?」
「本の種類と場所を覚えておけ」

 五冊の本が隙間を埋めた瞬間、本棚が音も立てずゆっくりと動く。

「わぁっ! 何これ!」
「魔法だ。五冊の本が正確な場所に差し込まれたときのみ作動する」
「へぇ……! そうなんですね」
「間違えると大変なことになるから気をつけろ」

 感動も束の間。最後の言葉に背筋が凍った。

「な、何が起こるんですか……?」

 おそるおそる聞くと、カタルがわずかに口角を上げる。ランプに照らされるカタルの表情はどこかおそろしくも感じた。

「……秘密だ。間違えなければいい話だろう」
「そんなっ! 余計怖いじゃないですか!」

 間違えたら矢が飛んでくるだとか、落とし穴が現われるだとか、そういう危険があるかもしれない。
 そう考えると震えてしまいそうだ。

「ほら、騒いでないで行くぞ」

 結局カタルは何も教えてくれずに、現われた入り口を潜って行ってしまう。何が起こるかわからない恐怖を抱えながら、シャルロッテはカタルを追った。
 本棚の奥に現われた部屋は小さな書庫だった。
 しかし、この書庫に置かれる本の想定は古い物が多い。

「これは?」
「ここには獣人のこと、皇族のことが記された書物が多くある。好きに読んでいい」

 カタルはあっさりと言った。シャルロッテは目を丸くする。

「でも、これってすごく重要機密なんじゃ……!?」
「そうだな。他者に話せば国がどうなるかわからない」

 真剣な表情に喉が鳴る。
 皇族の秘密。それが世に出れば、どうなってしまうのか。そう考えるだけで震えそうだ。獣人に恐怖するニカーナ帝国の民が獣人である皇族を受け入れられるとは思えない。
 シャルロッテは頭を横に振った。

「絶対に誰にもいいません!」