恥ずかしながら、社交界でシャルロッテ・ベルテの名を知らない者はいない。と、思っている。見合いをすること二十回。シャルロッテはそのたびにたった一つの条件を出してきた。
『屋敷の中で犬や猫などの動物を飼うことを許していただけるのであれば』
とびきりの笑顔で伝えると、相手は同じ顔をする。驚きでも軽蔑でもない。そこに到達することもできないような、状況が把握できないというような呆け顔。シャルロッテをまるで、別の言語を話す怪物のような目で見るのだ。
ニカーナ帝国の人間にとって、屋敷の中で動物を飼うなど想像もできないのは理解している。両親や弟でさえ、シャルロッテの望みは知っていても、外で触ることしか許してはくれなかった。
そんな問題児のシャルロッテに求婚状を送るなど、狂気の沙汰としか思えない。
(私の条件もすんなり受け入れてくれるかも!)
条件さえ受け入れてくれるのであれば、冷酷だろうと悪魔だろうと関係ない。
「お父様、お母様。せっかくですもの、お会いしてみたいわ」
シャルロッテは満面の笑みを両親に向けた。
ノエルが隣で信じられないものを見るような目で、シャルロッテを見ている。その目は、シャルロッテの結婚条件を聞いた時の見合い相手の目に似ていた。
「い、いいのかい……?」
「いいも悪いも、会わないとお断りもできないでしょう?」
相手は格上。会ってもいないのに断ることなど許されるわけがない。その方法で父は二十回もの見合いを取りつけたではないか。
そのつけが回ってきたのだ。
「大丈夫よ。『冷徹悪魔』だって、私の条件を聞いたら求婚状を送ったことを間違いだと理解するわ」
みんなが顔を見合わせる。そして、諦めたように頷いた。
◇◆◇
カタル・アロンソがベルテ家を訪れたのは、父が返事を書いた三日後のこと。
応接室には両親と一緒にノエルまで付き添い、大所帯で客人を迎えることになった。
カタルは出された紅茶に視線を落としたあと、一拍おいて口を開く。
「突然の求婚状に驚かれたことでしょう」
彼は形のいい唇で弧を作り、黄金に輝く瞳を細めた。
『屋敷の中で犬や猫などの動物を飼うことを許していただけるのであれば』
とびきりの笑顔で伝えると、相手は同じ顔をする。驚きでも軽蔑でもない。そこに到達することもできないような、状況が把握できないというような呆け顔。シャルロッテをまるで、別の言語を話す怪物のような目で見るのだ。
ニカーナ帝国の人間にとって、屋敷の中で動物を飼うなど想像もできないのは理解している。両親や弟でさえ、シャルロッテの望みは知っていても、外で触ることしか許してはくれなかった。
そんな問題児のシャルロッテに求婚状を送るなど、狂気の沙汰としか思えない。
(私の条件もすんなり受け入れてくれるかも!)
条件さえ受け入れてくれるのであれば、冷酷だろうと悪魔だろうと関係ない。
「お父様、お母様。せっかくですもの、お会いしてみたいわ」
シャルロッテは満面の笑みを両親に向けた。
ノエルが隣で信じられないものを見るような目で、シャルロッテを見ている。その目は、シャルロッテの結婚条件を聞いた時の見合い相手の目に似ていた。
「い、いいのかい……?」
「いいも悪いも、会わないとお断りもできないでしょう?」
相手は格上。会ってもいないのに断ることなど許されるわけがない。その方法で父は二十回もの見合いを取りつけたではないか。
そのつけが回ってきたのだ。
「大丈夫よ。『冷徹悪魔』だって、私の条件を聞いたら求婚状を送ったことを間違いだと理解するわ」
みんなが顔を見合わせる。そして、諦めたように頷いた。
◇◆◇
カタル・アロンソがベルテ家を訪れたのは、父が返事を書いた三日後のこと。
応接室には両親と一緒にノエルまで付き添い、大所帯で客人を迎えることになった。
カタルは出された紅茶に視線を落としたあと、一拍おいて口を開く。
「突然の求婚状に驚かれたことでしょう」
彼は形のいい唇で弧を作り、黄金に輝く瞳を細めた。