耳と尻尾をしまう練習中だったようだ。アッシュの頭の耳がない。まだ長時間は難しいらしいが、耳も尻尾も隠せるようになったとオリバーが言っていた。

(こう見ると、普通の男の子なんだよね)

「シャルロッテ嬢、いかがしました?」

 オリバーが落ち着いた声で問う。シャルロッテが返事をする前に、アッシュは椅子から飛び降りると、シャルロッテの元に駆け出した。

「ママッ!」

 そのままシャルロッテのスカートに飛びつく。最近は更に元気になったように思う。彼はキラキラとした目をシャルロッテに向けた。

「アッシュ、いいこしてる!」
「うん、勉強頑張っててすごいね」

 アッシュの頭を撫でると、彼は嬉しそうに目を細めた。すると、三角耳がひょっこりと顔をだす。お尻からは尻尾が生えた。アッシュは「あっ」と小さな声を上げて両手で耳を掴んだ。

「おみみ、出て来ちゃった」
「でも、ママはアッシュのお耳好きだな」

 本当は隠さないといけないのはわかっている。人間の世界で人間のふりをして生きなければならないのだから。けれど、嘘はつけない。こんな可愛い耳を嫌いになれるわけがないのだ。
 シャルロッテはアッシュの耳を撫でる。ふわふわの耳は極上の触り心地だ。

「そろそろ休憩の時間かと思って、お菓子を持ってきたの」
「お菓子っ!」

 アッシュの耳がピンッと立つ。シャルロッテを爛々とした目で見上げたあと、ギュッと眉根を寄せた。眉間に小さな皺が寄る。
 まるで小さなカタルみたいだ。

「だめ! アッシュ、いそがしい!」

 アッシュはくるっとシャルロッテに背を向ける。尻尾は寂しそうに下がっていた。

「え~。ちょっとだけ。ね?」

 三角耳がピクピクと動いたが、アッシュは頭を横に振った。