それから数日後、アッシュの授業が本格的に始まった。皇族は人間の姿になれるようになると、勉強をはじめるらしい。
 この国の歴史や、礼儀作法、そして狼獣人であることの隠し方。それはすべて皇族に必要なことだ。
 当面の講師はオリバーが担当するらしい。まだシャルロッテ以外に慣れていない今、新しく別邸に出入りする人数を増やすのは得策ではないというのがカタルの考えのようだ。

(カタル様はああ見えて、アッシュのこと色々考えているのよね)

 シャルロッテは別邸に向かいながら、最近聞かされた話を思い出す。現在、カタルは非常に忙しい日々を送っているのだが、これでも落ち着いたほうなのだという。

(アッシュが生まれる前は、ほとんど王宮で寝泊まりするほど忙しいなんて、想像できないわ)

 アッシュの非常事態に対応できるよう、仕事をすべて屋敷で行うことにしたのだとか。アッシュが生まれてから三年で、彼が王宮に出仕したのは三回。その三回も短時間のあいだだけだったのだとか。

(そのくせ、アッシュのことは避けるのよね。意味わからない!)

 カタルがもっとアッシュに優しくなれば、アッシュはもっと幸せになれると思うのだ。しかし、無理強いするものでもない。いやいや行動すれば、必ずアッシュにそれが伝わってしまうだろう。
 シャルロッテは別邸の扉を潜り、二階に向かった。
 一番奥から二番目の部屋。それが、アッシュの勉強部屋となった。今ごろそこで、オリバーから色々と教わっているだろう。
 シャルロッテは、バスケットにお菓子のクッキーを入れてきたのだ。

(休憩は大切だもんね!)

 シャルロッテが扉を叩く前に、ゆっくりと扉が開いた。魔法だろうか。アッシュもオリバーも部屋の奥にいる。