アッシュは今、多くのことを吸収しはじめている。カタルの態度がアッシュの成長の妨げになってはいけない。なにより、シャルロッテはアッシュファーストで動いてきた。ここで引くわけにはいかない。
 アッシュは自分自身の耳を確かめるように何度も触った。そして、はっとしたように顔を上げる。

「ママのおみみ、見たい!」

 キラキラとした目でアッシュはシャルロットを見上げた。この目には弱い。なんでも「いいよ」と言ってしまいそうになる魔力がある目だ。
 しかし、シャルロッテはアッシュの願いを叶えてあげられる術がなかった。

「ごめんね。ママはお耳がないの」
「ないの……?」

 アッシュはしょんぼりと目も耳も垂れさせる。
 しかし、ないものはどうしようもない。

「狼になれるのは皇族だけ。特別なの」
「こーぞく?」
「そう、この帝国を治めるすごい一族のこと」

 アッシュは首を傾げる。今はわからなくても、少しずつ理解するのだろう。この帝国のことを。その時、アッシュが少しでも悲しまないようにシャルロッテができることはしたいと思った。

「おみみないないしたら、パパうれしい?」
「うん、嬉しいよ」
「ママは?」
「ママも嬉しい。お耳を隠せたら、アッシュといろんなところに行けるの」
「いっしょ?」
「そう、一緒。きっと楽しいよ」

 シャルロッテはアッシュをぎゅっと抱きしめる。アッシュは嬉しそうにきゃっきゃと笑い、尻尾をぶんぶんと揺らした。