シャルロッテはギュッとアッシュを抱きしめる。彼は嬉しそうに目を細め、尻尾をぶんぶんと振った。

「耳も尻尾の隠せるようになったら、パパと毎日一緒にいられるから、安心してね」

 アッシュは自分の耳をグニグニと触る。「これ?」と首を傾げる姿はおそろしくかわいい。隠す必要なんてない。ずっとそのままの姿でいいと言いたい気持ちを抑えて、シャルロッテは頷いた。

「今、オリバー伯父様と練習しているでしょ?」
「うん」
「人間の姿が維持できるようになったら、パパともっと一緒にいられるわ」
「おみみ、だめ?」

 アッシュは耳も尻尾も垂れさせて、シャルロッテを見上げる。こんなにも愛おしい存在が許されない世界を憎みそうだ。シャルロッテはしっかりとアッシュを抱きしめた。

「ママは狼の姿がとっても大好きだけど、この姿はとっても特別な姿なの。だから、大切な人にしか見せちゃいけないの」
「パパのお耳、見たことある?」

 アッシュは目を輝かせて聞いた。

「パパのお耳? ううん、まだ見たことないわ」

(そういえば、カタル様も狼になれるのよね。……どんな感じなんだろう?)

 狼を間近で見たことはない。アッシュも狼ではあるのだが、子どもなせいか犬と変わらないように見える。動物図鑑には凛々しい犬のように描かれていたが、本当なのだろうか。

「そうだ! 今度二人でパパに見せてもらおう!」
「うんっ! でも、パパ、アッシュきらい……。だめかも……」
「そんなことないって!」

 シャルロッテは何度も慰めた。「そんなことはない」と言ってはみたものの、実のところシャルロッテも自信はもてない。カタルは仕事を理由にアッシュの部屋にほとんど来ない。来たとしても、ただアッシュのことを見つめ、やはり「忙しい」と言って出て行ってしまう。
 そのような態度では、シャルロッテの「そんなことない」は説得力に欠ける。

(この状況はよくないと思う!)