オリバーが手を伸ばすと、アッシュは耳を垂らしながらもオリバーの手を受け入れている。

「アッシュの頭を撫でられる日がこようとは……。シャルロッテ嬢には感謝してもしきれません」

 次はシャルロッテが照れる番だ。当たり前のことをしただけなのだが、感謝されると嬉しい。シャルロッテはアッシュの耳を撫でながら聞いた。

「この耳もそのうち隠せるようになるんですか?」
「ええ、そのはずです。そうなれば、自分の意思で姿を選べるようになります」
「そうなんですね。人間のほうがつらいとかないんですか?」

 生まれた時とは違う姿で生活するというのは、苦しくないのだろうか。人間は人間でしかないため、想像ができない。オリバーは難しそうな顔で唸りながら逡巡したのち、困ったように笑った。

「最初のうちは違和感も強く、どちらかというと狼の姿のほうが楽でしたよ」
「そうなんですね」
「ですが、皇族として我々は人間にならなければなりません。そう、教育を受けます。だから、今は狼の姿になることのほうがこわいですね」

 シャルロッテは静かに相槌を打つ。彼らの苦労は彼らにしかわからない。きっと、アッシュも今後同じような教育を受け、同じような苦悩を味わうのだろう。
 アッシュを見下ろすと、心配そうにシャルロッテを見上げている。

「そうだ! 今日は林檎を持ってきたの! 切ってあげるね!」
「りん、ご?」
「そう、林檎。おいしいんだよ」