シャルロッテはあははと声を上げて笑った。
「大丈夫よ。だって相手は、皇弟でしょ? 絶対にいたずらか間違いよ」
「そんなことわからないだろ。姉さんの魅力に気づいたのかも。……だったとしても、あいつは絶対ダメ!」
ノエルの叫び声にみんなが耳を塞いだ。
「ノエル、アロンソ公爵の悪口はお辞めなさい。誰かに聞かれでもしたら……」
母はこめかみを押さえて頭を横に振った。
皇族からしたら中堅のベルテ家など、小指でひとひねりだろう。
「母上だってあの男の噂は知っているだろ!? 生まれたばかりの赤子を奪って妻を捨てるような男だぞ!?」
両親は顔を見合わせて、顔を曇らせる。
三年前の離婚事件は新聞にも何度も取り上げられ、貴族どころか平民も知るようなスキャンダルになった。
カタル・アロンソは妻から生後一ヶ月にも満たない子を奪い、離縁までしてしまったのだ。アロンソ邸の門は固く閉じられ、返してと泣きじゃくる元妻の訴えを聞かなかったという。
新聞でも何度も「息子を返してほしい」と涙ながらに訴える元妻が一面に取り上げられていたのを覚えている。
(あれから三年も経つのね)
カタルの元妻――クロエ・ピエタとシャルロッテは三歳差で、社交場でも面識はあった。同じクループにいたわけではないが、夜会では会話をしたこともある。ピエタ侯爵家は階級で言うと上の中の中くらいだから、いつも見下されていてあまりいい思い出はないけれど。
最近、彼女の話は聞かない。療養のためピエタ家の領地にいるとか、心の病で屋敷からでられなくなったとか、そういう噂も一年もすればなくなってしまった。
「でも、なんで今更再婚なんて考えているのかしら?」
「さあ。悪魔の考えることなんてわからないよ」
シャルロッテの疑問にノエルは不機嫌そうに答えた。
息子が一人いるから、跡継ぎの問題はない。女嫌いなのであれば、結婚する必要はない状況のように思えた。
彼が噂とは違い女嫌いではないというのであれば、息子を産んだばかりの妻を捨てる必要もないように思えた。
(やっぱり何かの間違いよね)
シャルロッテは父から手紙を受け取ると、二枚綴りの手紙を眺め見た。
流れるように美しい字はお手本のようで惚れ惚れとする。「結婚をお許しいただきたい」となんのためらいもなく書かれた手紙。
言葉運びから、育ちのよさが伺える。いや、相手はカタル・アロンソ――皇帝の唯一の弟だ。育ちなど手紙から察する必要もなかった。
(もし、何らかの事情があって、本当の本当に私に求婚してきたのだとしたら、切羽詰まっているはずよね)
「大丈夫よ。だって相手は、皇弟でしょ? 絶対にいたずらか間違いよ」
「そんなことわからないだろ。姉さんの魅力に気づいたのかも。……だったとしても、あいつは絶対ダメ!」
ノエルの叫び声にみんなが耳を塞いだ。
「ノエル、アロンソ公爵の悪口はお辞めなさい。誰かに聞かれでもしたら……」
母はこめかみを押さえて頭を横に振った。
皇族からしたら中堅のベルテ家など、小指でひとひねりだろう。
「母上だってあの男の噂は知っているだろ!? 生まれたばかりの赤子を奪って妻を捨てるような男だぞ!?」
両親は顔を見合わせて、顔を曇らせる。
三年前の離婚事件は新聞にも何度も取り上げられ、貴族どころか平民も知るようなスキャンダルになった。
カタル・アロンソは妻から生後一ヶ月にも満たない子を奪い、離縁までしてしまったのだ。アロンソ邸の門は固く閉じられ、返してと泣きじゃくる元妻の訴えを聞かなかったという。
新聞でも何度も「息子を返してほしい」と涙ながらに訴える元妻が一面に取り上げられていたのを覚えている。
(あれから三年も経つのね)
カタルの元妻――クロエ・ピエタとシャルロッテは三歳差で、社交場でも面識はあった。同じクループにいたわけではないが、夜会では会話をしたこともある。ピエタ侯爵家は階級で言うと上の中の中くらいだから、いつも見下されていてあまりいい思い出はないけれど。
最近、彼女の話は聞かない。療養のためピエタ家の領地にいるとか、心の病で屋敷からでられなくなったとか、そういう噂も一年もすればなくなってしまった。
「でも、なんで今更再婚なんて考えているのかしら?」
「さあ。悪魔の考えることなんてわからないよ」
シャルロッテの疑問にノエルは不機嫌そうに答えた。
息子が一人いるから、跡継ぎの問題はない。女嫌いなのであれば、結婚する必要はない状況のように思えた。
彼が噂とは違い女嫌いではないというのであれば、息子を産んだばかりの妻を捨てる必要もないように思えた。
(やっぱり何かの間違いよね)
シャルロッテは父から手紙を受け取ると、二枚綴りの手紙を眺め見た。
流れるように美しい字はお手本のようで惚れ惚れとする。「結婚をお許しいただきたい」となんのためらいもなく書かれた手紙。
言葉運びから、育ちのよさが伺える。いや、相手はカタル・アロンソ――皇帝の唯一の弟だ。育ちなど手紙から察する必要もなかった。
(もし、何らかの事情があって、本当の本当に私に求婚してきたのだとしたら、切羽詰まっているはずよね)