本邸に戻ったときには、とっくに朝食の時間は過ぎていた。
 久しぶりのお風呂を堪能する。寝込んでいたあいだ、オリバーが魔法で清潔を保っていてくれたらしいのだが、そういう問題ではない。
 やはり、身体を洗うという行為自体がシャルロッテにとっては重要なのだ。
 さっぱりとした気分で朝食を摂っていると、カタルが現われた。
 朝食の時間はとうに過ぎているし、忙しいカタルがわざわざシャルロッテに会いに来るのは珍しい。
 彼はシャルロッテがもりもりと肉を頬張る姿を見て、小さなため息を吐いた。

「体調は……いいようだな」
「はい! もうすっかり健康です。あ、そうだ! アッシュをお外に連れて行きたいのですが、どこかありませんか?」

 シャルロッテの質問にカタルは眉根を寄せる。

「アッシュもずっと、部屋の中じゃ気が滅入るでしょう?」

 前は部屋の隅で怯えるだけだったが、今は走り回るようになった。別邸の中を走り回ってもいいのだが、やはり、太陽の下のほうが気持ちがいいのではないかと思ったのだ。
 カタルは少しの沈黙のあと口を開く。

「そんなに外に連れて行きたいのであれば、別邸内に裏庭がある」
「裏庭?」
「ああ、少し狭いがそこならいい」
「ありがとうございます。カタル様もご一緒にいかがですか?」

 シャルロッテは何の気なしに誘った。アッシュもシャルロッテ以外の人と交流を持ったほうがいいだろう。それに、カタルは父親なのだ。父親が一緒ならアッシュも嬉しいはず。
 カタル黙ったまま、眉根を寄せる。
 なかなか返事のない彼の顔を覗き込んだ。眉間に皺が三本。そんな顔をするような提案をしただろうか。
 シャルロッテはただ、息子と一緒にピクニックをしようと提案しただけだ。

「……私は執務がある」
「そうですよね。いつも忙しそうですもの」