シャルロッテはアッシュの身体をガウンで包み込むと抱きしめた。

「私はどこにもいかないよ。大丈夫」

 何度も何度もアッシュの頭を撫でる。ふわふわではないけれど、やわらかなアッシュグレーの髪は心地いい。ついでに耳も撫でてしまおう。
 アッシュは大きな青い瞳に大粒の涙を溜めてシャルロッテを見上げた。

「アッシュ、いいこ……なるから……」
「アッシュはもういい子だよ」

 ぽろぽろと涙が流れる。拭っても拭っても涙が零れ続けた。
 彼はシャルロッテの服を握って離さない。シャルロッテは困ったようにカタルを見上げた。
 カタルはずっとシャルロッテの側でアッシュを見つめている。一言も口にはしていない。息子が人間に初めて変化した瞬間だというのに、感動の言葉もないものだろうか。

「カタル様」

 シャルロッテが声を掛けると、彼の肩がびくりと跳ねる。

「あ、ああ。なんだ?」
「今日はこのままアッシュと一緒にいようと思うのですが、いいですか?」

 ちょうどシャルロッテの服は寝間着だ。まだ昼ではあるが、安静にしていろと言われている。
 しかし、ここならば大きなベッドもあるし、問題ないように思えた。
 カタルは眉を寄せ、しばし逡巡したのち頷く。

「安静にしていろ」
「もちろんです! ここで、アッシュと安静にしているので安心してください!」
「……わかった。私は執務が残っている。あとは好きにしろ」

 彼は冷たく言うと、部屋を出ていった。扉を閉まる音がいつになく響く。遠くに聞こえるのは彼の足音だ。