シャルロッテはもう一度抱き上げようとしたカタルを制し、フラフラの足で階段を登った。この三日で随分と体力が落ちたようだ。
 結局カタルの腕を借りながら登り、アッシュの部屋に辿り着く。シャルロッテは扉を三度叩いた。

「アッシュ、私よ」

 返事はなかった。
 いつものように扉を開ける。風が吹き、ふわりとシャルロッテのストロベリーブロンドの髪がなびいた。
 視線を彷徨わせる。アッシュは窓際の椅子の側で、シャルロッテのストールに包まるようにして丸まっていた。
 ただ、じっとシャルロッテを見つめる。いつものように飛びついてきたりはしなかった。

「アッシュ?」

 アッシュが立ち上がって、ゆっくりシャルロッテの元に歩いてくる。不安そうな顔だ。途中で立ち止まると、アッシュは小さく鳴いた。鳴き声の意味はわからないが、寂しそうな声だ。
 シャルロッテは床に膝をついて、アッシュと目線を合わせた。

「遅くなってごめんね」

 すると、アッシュの身体が光に包まれる。眩しさに目を瞑り、次に目を開けたとき、目の前にいたのは小さな狼ではなく、アッシュグレーの髪を持った幼子だった。
 二、三歳くらいの子どもの身体に耳と尻尾。想像どおりの獣人の姿だ。

「……アッシュなの?」
「ごめ……なさ……」

 アッシュは小さな声で絞り出すように言うと、シャルロッテの腕を掴む。

「いか……いで……」

 アッシュは何度もその二つの言葉を繰り返し、シャルロッテの腕に抱きついた。