カタルはそれだけ言うと、大股で歩き出す。シャルロッテは横抱きにまま足をじたばたさせた。

「おろしてください! 一人で歩けます!」
「倒れられても困る。いいから黙っていろ」

 有無を言わせない強い口調にシャルロッテは口を噤んだ。騒げば騒ぐほど使用人たちに注目される。それならいっそのこと静かにしていたほうがいい。
 横抱きにされることなんて、幼いころにしか経験がない。

(なんて恥ずかしいの……!)

 顔から火が出そうだ。
 本邸の廊下が異様に長く感じた。


 本邸と別邸を隔てる扉の前に到着し、シャルロッテは声を上げた。

「あれっ!? ブレスレット!」

 右腕にはまっていたはずのブレスレットがない。慌てていると、カタルがシャルロッテを床に降ろす。そして、ポケットからブレスレットを取り出した。

「私が預かっていた。治療にも邪魔だったからな」
「ありがとうございます。よかった~。なくしちゃったかと思った」
「これは大切な物だ。気をつけろ」

 シャルロッテは深く頷くと、右腕にブレスレットをつける。そして、扉にかざした。
 仰々しい儀式ではあるが、大切なものだ。アッシュ――ひいては皇族の秘密を守るために。アッシュの心を守るためのものでもある。

「もう自分で歩けますから!」