シャルロッテよりも先にカタルが返事をした。慌てて、シャルロッテも頭を下げる。

「いえ、アロンソ公爵の未来の奥様のためですからね」

 医師は嬉しそうに目を細めた。彼は執事に連れられて部屋を出ていく。そして、気づけばカタルとシャルロッテは二人だけになってしまった。
 シャルロッテは目を泳がせる。だいぶ迷惑をかけてしまったことをまず謝罪すべきだろうか。
 医師の手配も、手の傷の嘘も彼が一人でやったのだろう。

「ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「いや。私の判断ミスだ。最初から医師を呼ぶべきだった」
「きっと、その提案は私が断っていたと思うので、お互い様かと」

 元気な時に医師に診てもらおうと言われても、「この程度、舐めておけば治りますよ」と笑い飛ばしただろう。カタルは難しい顔をしたまま黙った。

「あっ! アッシュ! アッシュに会いに行かないと!」

 子どもにとって三日とは長い。シャルロッテも幼いころ、父が仕事で二日ほど屋敷を開けたときは寂しくて辛かった。

「だめだ。あと一日は安静にしておけ」
「一日なんて待てません! こんなに元気なのにっ!」

 シャルロッテはベッドから飛び降りる。しかし、身体がよろけてしまった。カタルが支えてくれたおかげで尻は強打せずにすんだようだが。

「ほらな。あと一日は寝ておけ」
「いやです! 這ってでも行きますから!」

 シャルロッテは叫ぶ。癒しがほしいし、これ以上アッシュを放っておけない。カタルをにらむと、彼は呆れたようにため息をついた。彼は椅子の背にかかったガウンを引っ張り上げると、シャルロッテの肩にかける。
 柔らかなベージュのガウンは手触りが最高で気に入っていた。
 訳がわからず首を傾げた瞬間、身体が宙に浮く。

「ちょっと!?」
「黙っていろ。あいつに会いたいんだろ?」