医師は一通りシャルロッテを診察すると、にこりと笑う。

「傷口もふさがったし、熱も下がったことですし、もう大丈夫でしょう」
「ありがとうございます」
「いえ。そんなことより、アロンソ公爵にお礼を。ずっとつきっきりで看病されおりましたよ」
「カタル様が!?」

 医師の言葉に目を丸める。
 カタルに視線を向けたが、彼はシャルロッテから視線を逸らした。

(つきっきりと言っても、この人がそれをずっと確認していたわけじゃないし、多分そういうことにしているというだけよね)

 この期に及んでいい人のふりをするとは。悪名高いカタル・アロンソが少し優しくなったからと言って、評判が上がるとは思えないのだが。
 シャルロッテがカタルを見つめていると、医師が口角を上げてシャルロッテの顔を覗き込んだ。

「お嬢さん、次は野犬に襲われたことを秘密にしてはいけませんよ」
「……え?」

 医師の言葉にシャルロッテは再び目を丸める。

「アロンソ公爵に聞きました。野犬に襲われたのだと」

 神妙な面持ちで医師は「野犬はおそろしいですからなぁ」とうなずく。

(そっか。この傷をアッシュがつけたってバレたら困るから……)

 シャルロッテはすべてを理解し、あははと笑った。

「すみません。そこまで深くなさそうなので大丈夫かと思ったのですが」
「普通の令嬢はあの傷を深くないとは言いませんがね」
「あー……。私は普通ではないようなので」
「そのようですね。次は浅い傷でもお呼びください」

 医師は笑顔ではあったが、目は笑っていなかった。シャルロッテは迫力に気圧され、何度も頭を縦に振る。彼は満足そうに一回だけ頷くと立ち上がった。

「では、薬は毎日二回。また熱が上がったら、連絡をください」
「お忙しい中、ありがとうございます」