アロンソ家――その名前を知らない貴族はいない。いや、貴族に興味関心のない平民たちですら、その名前を知っているくらい、アロンソ家は有名だ。
 悪い意味で。

 シャルロッテは目を瞬かせた。
 両親、弟、そして執事の視線がシャルロッテに注がれる。

「求婚? 私に? 誰が?」
「アロンソ公爵が……。シャルロッテ・ベルテ嬢にぜひにと」

 一行ずつ指でなぞりながら文章を読んだ父が、静かな声で答えた。

「アロンソ公爵って、あのカタル・アロンソが?」
「これ、シャルロッテ。呼び捨てにしていいような人ではありませんよ!」

 母にたしなめられ、シャルロッテはペロリと舌を出した。

「この手紙は本物か? 誰かの功名ないたずらでは?」

 父の声は震えている。それもそのはずだ。アロンソ公爵家とベルテ伯爵家では家格が違う。
 ベルテ家が貴族階級の中の中の下くらいだとすると、アロンソ家は上の上の上である。社交場で会ったとして、挨拶すらさせてもらえるかどうか怪しい。
 そんな家から求婚状が届いたなど、信じられなくてもしかたないことだ。いや、シャルロッテだって信じてはいない。

「お父様、絶対いたずらですよ。だって、女嫌い、女の敵! あとなんだっけ? えっと……」
「冷酷悪魔」

 ノエルが低い声で言った。
 母が慌てて「こら、ノエルもやめなさい」とたしなめる。
 女嫌い、女の敵。そして、冷酷悪魔。どれも新聞で見たあだ名だ。
 カタル・アロンソ。正確にはカタル・ニカーナ・アロンソ公爵。帝国の名――ニカーナを背負う、皇族の一人だ。

「そんな奴との結婚は絶対反対だから!」

 ノエルは叫ぶ。