どうにか起き上がろうとして、誰かに力いっぱい押し戻された。

「なんですか? 私、アッシュのところに行かないと……」
「だめだ。今日は寝ていろ」

 不機嫌そうな声はカタルか。シャルロッテは彼の手を振り払おうとして、手が宙を切った。

「アッシュのことはオリバーに任せてある」
「でも……。また明日って言ったので」
「今は歩けるような状態じゃない。ひどい熱がある。会っても心配させるだけだ」

 子どもに言い聞かせるような声色でカタルが言った。シャルロッテは頬を膨らませる。しかし、彼の言うとおり力が入らない。だから、怒っても仕方ないのだろう。

「果物が好きなので、食べさせてあげてくださいね……」
「わかった。今は寝ろ」
「あと、アッシュに玩具を作ったんです……。あそこの引き出しに……」

 あとは何かあっただろうか。
 うーんと唸っているあいだに睡魔が襲い眠ってしまった。
 その日、シャルロッテは最高の夢を見た。どうにも寒くて苦しくて辛かったとき、大きな犬が現れたのだ。彼は子どものころ会ったときのように、何も言わずジッとシャルロッテを見つめる。
 そして、シャルロッテの横に座った。
 ゆっくり頭を撫でても動じない。シャルロッテはそのまま顔を埋めた。

(あったかい~。もふもふ~)

 なんという幸せなのか。アッシュに比べたらしっかりとした毛。けれどやわらかくて温かい。シャルロッテを包み込んだ。
 最高の抱き心地だ。
 いつの間にか寒さも苦しさもなくなってしまった。