腹を見せて、楽しそうに笑うアッシュはなんと可愛いことか。
 ふわふわの毛は筆舌に尽くしがたい。
 この触り心地のよさを知らずに一生を終えるニカーナの人々は可哀想だ。

(ああ~最高! ふわふわ~)

 子ども特有の柔らかい毛。いくらでも触っていられそうだ。
 爪はしっかりと切られていた。おそらく、オリバーがやってくれたのだろう。

(次からは私が切らなきゃ!)

 人間だって爪が伸びたら切るのだから、狼だって切ってもおかしくはない。獣人について、シャルロッテはしらないことだらけだと思った。
 シャルロッテはアッシュと日が暮れるまで遊んだ。アッシュもすっかり元気になったように思う。
 アッシュが眠りにつくのを見届ける。
 可愛らしい寝顔を見ていると幸せな気持ちで胸が満たされた。

「また明日会いにくるね」

 寝顔のアッシュに告げると、耳がピクリと動く。眉間を撫で、シャルロッテは部屋を後にする。


 シャルロッテは別邸と本邸を隔てる大きな扉に右手をかざして、怪我のことを思い出す。晩餐の時間もとっくに過ぎている。  
(いけない。手当をしてもらう約束だった!)

 つい、アッシュの相手をするのに夢中になっていた。
 シャルロッテは慌ててカタルの執務室を訪問する。ノックを三回。そのあと扉をおそるおそる開くと、眉間に皺を寄せた彼が睨むようにシャルロッテを見ていた。

「遅い」
「すみません。アッシュと遊んでいたら、つい……」