シャルロッテはアッシュに一歩近づいた。すると、アッシュは逃げるように後ろに下がる。しかし、彼のいるところは部屋の隅だ。これ以上後ろにはいけず、壁に尻を押しつけるような形になった。

「アッシュ、どうしたの?」

 アッシュは唸り声をあげる。しかし、よく見るとその顔は最初に会った時とは違った。恐怖心というよりは不安のようなものを感じる。

(もしかして、こういうときはどうしたらいいかわからないかも)

 初めて悪いことをしたとき、シャルロッテもどうしていいかわからなかった。母は「きちんと謝りなさい」と教えてくれたけれど、それをアッシュに教えてくれる人はいなかったのは、想像できる。
 シャルロッテはゆっくり息を吐き出すと、一歩、二歩とアッシュに近づいた。
 今にも泣きそうな顔でアッシュがシャルロッテを見上げる。
 シャルロッテは床に座り込むと、アッシュの視線に合わせた。包帯の巻かれた腕を彼の前に伸ばす。

「もう、手当をしたから大丈夫だよ」

 アッシュは耳を垂らしたまま、シャルロッテの腕と顔を交互に見る。どうしていいのかわからない。そんな顔だ。

「こういうときは『ごめんなさい』って言うのよ」

 アッシュは逡巡したあと、小さく鳴いた。

「キュゥン……」
「うん、上手。大丈夫。怒ってないよ」

 シャルロッテが満面の笑みを見せると、アッシュは一歩、二歩とゆっくり近づいて包帯の匂いを嗅ぐ。
 動物は臭覚が優れているのだとか。きっと、消毒薬の臭いと、血の臭いを確認しているのだろう。

「ねえ、アッシュ。お詫びにたくさん撫でさせてくれる?」

 シャルロッテがたずねると、アッシュの垂れていた耳が立ち上がる。そして、尻尾を振った。シャルロッテはすかさず抱き上げ、膝の上でアッシュを撫で回した。