本当のことだ。いまだベルテ家の思い出話に上がる三大ネタの一つである。父の鉄板ネタだ。彼は色々なところでこの話をしているから、シャルロッテのやんちゃぶりは家族以外も知るところとなった。

「君は昔から変らなかったようだな」
「どういう意味ですか? 私がお転婆だと?」
「おとなしい子どもは父親の腕に歯形などつけない」
「それは……否定できません」

 シャルロッテは肩を竦める。幼いころのシャルロッテは好奇心の塊だった。なんにでもかじりつき、そのたびにメイドが叫び声を上げたのだとか。

「先が思いやられるな」
「安心してください! 昔よりはほんの少しだけお淑やかになりました! 更に分別もっつきます」

 シャルロッテは自信満々に胸を張って言った。
 二十二年も生きたのだ。それなりにお淑やかにもなるし、分別もつく。必要ならば猫だって被ってきた。
 カタルは馬鹿にしたように鼻で笑う。何が面白いのかはわからない。

「傷が治るまでは私が手当を手伝うから、ここに来い」
「一人でできますよ!」
「利き手なのにか?」
「私は左手も器用なので大丈夫かと!」

 彼は訝しげにシャルロッテを見た。
 シャルロッテは愛想笑いを見せる。しかし、笑顔は通用しないようだ。
 救急箱を姉妹ながらカタルが言う。

「日に二度。ここに来い」
「……大丈夫なのに」
「君は大雑把そうだから、信用ならん」
「それを言われると、何も言えません。わかりました。もし、仕事が忙しいようなら断ってくださいね」

 シャルロッテはぺこりと頭を下げ「よろしくお願いします」と言った。この程度の傷で彼の仕事の邪魔をする必要はないと思ったからだ。

「それでは、手当していただいたのでアッシュのところに戻ります」
「本当に君は息子が気に入ったんだな」
「あんなに可愛い子をどうして嫌いになれましょうか?」

 シャルロッテは満面の笑みで言った。本当は「どうしてあなたはあんなに可愛い子を避けているの?」と聞きたかったけれど、それは聞けない。