最初はそこまで痛くないと思ったが、少しずつ痛みが増していた。
 傷口を見たら更に痛みが増しそうで汚れたハンカチを巻いた。

(包帯ってどこに置いてあるんだろう? メイドさんたちに聞いたらわかるよね)

 シャルロッテはいつもより急ぎ足で別邸の廊下を歩いた。
 早く治療して、アッシュに「もう治ったよ」といわなければ。彼はひどく落ち込んでいたように見えた。
 ブレスレットを使って大きな扉を潜る。シャルロッテの専属のメイドはメイシーとカリンの二人。彼女たちはおそらくシャルロッテの部屋にいる。
 本邸の長い廊下を走っていたら、曲がり角で人にぶつかってしまった。

「きゃっ!」

 勢いよくぶつかったせいで、シャルロッテはバランスを崩し尻餅をつく。「いたた……」とお尻をさすりながら、シャルロッテは立ち上がった。

「大丈夫か?」
「ええ、ごめんなさい。急いでいたものだから……って、カタル様? こんなところでどうしたのですか?」

 目の前に立っていたのは、カタルだった。彼はいつも忙しく、朝食と晩餐の時間にしか顔を合わせない。シャルロッテは驚き目を丸めた。

「ここは私の屋敷だ」
「そうでした。あまりにも会わないので、珍しく思えてしまって」

 一応夫になる相手だというのに、少し失礼だっただろうか。いや、夫になるのだから少しくらい遠慮なく会話してもいいだろう。

「急いでいるようだが、どうした?」
「実は怪我をしてしまいまして。治療をしてもらおうと部屋に向かっていたのです」

 シャルロッテは手を上げて、ハンカチで巻いた手の甲を見せる。血で汚れた白いハンカチはあまり綺麗とは言えなかった。カタルが眉根を寄せる。気持ち悪いものを見せられたらそんな顔にもなるなと思い、シャルロッテは慌てて手を背中に回した。
 しかし、彼はシャルロッテの手を取ると、ハンカチを乱暴にむしり取る。

「アッシュか?」
「はい。ちょっとはしゃいでいたらガリッとやってしまいました」