ニカーナ帝国では幼いころから獣人とは恐ろしい生き物だと教わる。獣人は人間と動物両方の姿になることから、身近にいる犬や猫なども毛嫌いするのだ。

「動物が好きなんておかしいかもしれないけど……。それでも私は犬と一緒にお昼寝したり、猫を膝にのせて撫でまわしたりしたいのよ!」

 シャルロッテが叫ぶと、母の顔が紙のように白くなる。ふらりと倒れそうになる母を父が支えた。

「お忙しい中恐れ入りますが。お手紙が届いております」

 白髪を綺麗に整えた執事が、届いたばかりの手紙を銀盆(サルヴァ)に乗せて、そっと父の前に差し出した。
 
「手紙など後で――……アロンソ家か」

 父は眉根を寄せた。温厚で、娘の趣味に苦言を呈することもない。そんな父が嫌悪を表情に出すのは珍しいことだった。
 手に取った手紙を開くと、父の表情がみるみるうちに険しくなる。

「父上、手紙にはなんと?」

 ノエルが焦らされるように聞いた。

「求婚状……だそうだ」
 
 それだけ言うと、父の視線がシャルロッテに向いた。白くなった母の顔はみるみるうちに青に変わる。
 そして、ノエルの手がわなわなと震えた。

「あの『女の敵』が姉さんに求婚っ!?」

 ノエルの声が部屋に響く。