手の甲にできたひっかき傷。深く入ってしまったようでたくさん血が出ているようだ。

「ああっ! ひどい傷だ! 早く治療しないとっ!」

 シャルロッテ以上にオリバーが驚き慌てている。彼の慌てようを見ていると、なぜか冷静になれた。

「大丈夫です。そんなに痛くないので」

 シャルロッテは慌てふためき部屋を右往左往するオリバーに声を掛けた。
 アッシュは目を見開き、傷を凝視している。初めて見る傷に驚いたのかもしれない。シャルロッテはハンカチを取り出し、手の甲の鮮血を拭う。

「爪で引っ掻いたらこんな風に血が出るから、今度からはしてはだめよ」

 シャルロッテは優しい声色でアッシュに言った。
 頭を撫でようとすると、びくりと身体が震える。叩かれると思ったのだろうか。シャルロッテは頭を優しく撫でた。
 アッシュは不安な顔でシャルロッテを見上げる。

「これくらいの傷、なんともないわ。だから安心してね」

 それでも心配なのか、アッシュはペロリと傷を舐める。ヒリッとした痛みにシャルロッテは眉根を寄せた。

「アッシュのことは私に任せて、本邸で手当を受けてきてください。あいにく、私は治癒魔法が使えないものですから……」

 オリバーは申し訳なさそうに眉尻を下げる。そして、アッシュを抱き上げた。アッシュは落ち込んでいるのか、されるがままだ。
 シャルロッテはアッシュの頭を撫でる。

「手当をしたら戻ってくるから、オリバー伯父さんと待っていてね」
「キュゥン……」

 苦しそうな、寂しそうな声を上げる。

「オリバー様、あの毛玉がお気に入りなので、あれで遊んであげてください」

 シャルロッテは床に転がる青色の毛玉を指差すと、オリバーは頷いた。もう一度アッシュの頭を撫でて部屋を出る。