当時の婚約者はシャルロッテにベタ惚れで、「なんでも願いを叶えてあげる」という言葉をよく言っていた。それがリップサービスだと気づけなかったシャルロッテはつい言ってしまったのだ。

『私ね、結婚したら屋敷で犬とか猫が飼いたいの!』

 そう言った時の彼の顔は今でも覚えている。あの日、シャルロッテは自分がバケモノになったのだと思った。
 婚約撤回を希望する手紙が届いたのは次の日のこと。
 手紙の返事を出す前に、シャルロッテの噂は瞬く間に広がったのだ。

「と、いうわけなんです」

 思い出すと腹立たしい。
 シャルロッテはその婚約者を信頼して秘密を打ち明けたのだ。なぜ、世間に広めたのか。結果、見合いに二十敗してアッシュの継母という地位を手に入れられたのだが。
 それとこれとは話が別だ。
 オリバーは哀れむような目でシャルロッテを見る。
 そんな目で見ないでほしい。まるで、シャルロッテが可哀想な人みたいではないか。

「おかげで、こーんなに可愛い子のママになれたので、後悔はありませんけどね!」

 シャルロッテは目を開けたアッシュに頭をぐりぐりと撫でる。嬉しそうに鳴いたアッシュはシャルロッテの腕にじゃれついた。
 しかし、引き裂くような強い痛みを感じ、シャルロッテは声を上げて手を引く。

「いたっ」

 ポタリポタリと鮮血が滴り落ちる。