オリバーは静かに、皇族の歴史を語った。ニカーナ帝国の人間は獣人を嫌う。だから、皇族は獣人の血が流れていることを隠し続けてきたそうだ。

「妻になる人も知らないんですか?」
「ええ、知りません。それを伝えていた時代もあったようですが、夫が獣人であることを受け入れられず、心を病んでしまう人間が多かったのです」

 彼の説明に、シャルロッテは「ああ、なるほど」と相槌を打った。たしかに、帝国では教育として「獣人はおそろしい生き物」として教えられる。シャルロッテも、動物は好きだが獣人が怖くないかと聞かれたら怖い。しかし、カタルやオリバーはどこからどう見ても人間だ。獣人と言われてもしっくりはこなかった。なにより、アッシュのかわいさを前にしたら、獣人か人間かなのど些細な問題に思えたのだ。
 アッシュはかわいい。それだけでじゅうぶんだった。

「歴史を紐解くと、皇族の子孫がうんと減った時期があります。おそらくそれを経て、皇族は獣人であることを隠すことを選んだ」
「なるほど」

 子孫繁栄を考えると、秘密にするべきなのだろう。

「でも、子どもって獣人の姿で生まれるんですよね? みんなそこでびっくりするのでは?」