眼鏡の奥から慈愛の笑みがこぼれる。従兄弟伯父ですらこんなに優しい目をするのに、カタルからそういう優しさが感じられないのはなぜだろうか。

「そういえば、獣人って何歳くらいになると人間の姿に変わるんですか?」
「早いと、一歳になったくらいですね」
「そんなに早いんですね」
「カタルなんか、一歳になる前から人間の姿に変化して驚かれていました」
「へえ! アッシュもそのうち人間になるのかなぁ~? きっとかわいいでしょうね」

 シャルロッテはもふもふしている動物が大好きだ。けれど、人間が嫌いなわけではない。人間の子どもだってかわいいと思う。きっと、アッシュの人間の姿はかわいくてたまらないだろう。

「アッシュは色々な事情が重なって、成長が遅れています。気長に待ってやってください」

 色々な事情。彼の言葉には重みがあった。
 きっと、それはアッシュの母親が関係しているのだろう。

「どうして――……」

 シャルロッテは言いかけて、言葉を止めた。「どうして離婚したんですか?」なんて聞いたところで、何も変わらない。アッシュのつらい三年間はやり直しもできないのだ。なら、聞くだけ無駄だろう。
 シャルロッテは歯を見せて笑った。

「アッシュのことはこれから私がうーんと愛情を注ぐので、安心してください」

 眠るアッシュの背中を撫でる。丸くて小さくて愛らしい背中だ。

「頼もしい方がカタルの奥方になられるようでよかったです」
「私なんて、ただ動物が好きなだけですから」
「それが、頼もしいのですよ。私は生まれて三十年、あなたのような人間を見たことがありません」