そのほわほわとした柔らかい毛の感触にシャルロッテは幸福を感じずにはいられない。

(なんて幸せなのかしら……)

 こんな幸せは一生手に入れられないかと思っていたのだ。
幸せを噛みしめるつもりで、シャルロッテは何度も何度も背を撫でる。アッシュは少しくすぐったそうに目を細めた。その表情は父の髭を「いやだ」と言いながら受け入れているノエルの表情に似ている。
それが可愛くて、全身を撫で回してしまうのだ。

「今日はなんの予定もないから、ずーっと一緒にいられるわ」

 シャルロッテが言うと、アッシュは「キャンッ」と嬉しそうに吠えた。
 アッシュは人間の言葉は話せないが、理解はしているようだ。オリバーが狼の姿だと声帯が違うため人間の言葉は話せないのだと教えてくれた。アッシュが人間になったときに少しでも言葉を話せるように、シャルロッテは何でも言葉に出すことにしている。
 アッシュは言葉を話さない代わりに、鳴き声や行動で意志を示してくれていた。
 シャルロッテは持って来た荷物の中から、毛糸で作った玉を取り出した。

「アッシュのために作ってきたの。ほら、見て。アッシュの瞳の色と同じ青色よ」

 アッシュの目の前に玉を差し出すと彼の目がきらきらと輝いた。

「投げるから、これを取ってきてね」
「キャンッ」

 彼の返事を聞いてシャルロッテは微笑むと、玉を遠くへと投げる。アッシュは勢いよく追って、毛糸に飛びついた。空中でうまく捕まえたアッシュは、誇らしげにシャルロッテの元へと戻ってくる。

「すごい! 初めてなのにできちゃうなんて天才だわっ!」

 シャルロッテは両手放しで褒め、何度もアッシュを撫でる。彼は嬉しそうに尻尾を振るが、実際のところはシャルロッテのほうが幸せなのだ。
 ふわふわの毛をご褒美と称して撫でられる日がくるは思わなかった。

(こんな人生があるなら、皇族の妃に真っ先に手をあげたのに!)

 シャルロッテだって一応貴族の令嬢だ。ベルテ家に皇族との婚約を結ばないかという打診が来たことがあるとかないとか。